頭中将
源氏物語屏風in宇治市*源氏物語ミュージアム
源氏と頭中将は競って末摘花(すえつむはな)に懸想文を書いては、返事があったかどうかを互いに探りあった。
しかし、何度おくってもどちらへも反応がない。
頭中将は、いい加減いらいらしてきた。
「あまりにも味気ないではないか。
わびしい生活をしている人はもののあはれを解し、草木や空の景色をみては和歌に詠んで送ってくれれば、ゆかしい心ばえが偲ばれる。そういう女に、男は心惹かれるものだ。
重々しい身分とはいえ、こうまで引っ込み思案なのはいただけない。こちらの体裁もわるい」
源氏にたずねた。
「あちらからのお返事は御覧になりましたか。わたしも試しにちょっと手紙を出してみたのですが、みごとに梨の礫です」
源氏は、わざとあいまいに答えた。
「さあ、あまり意識していないけど見た記憶はないような…」
頭中将は、「もしかしたら、自分だけ無視されているのか」と悔しくてならない。
源氏は末摘花にそれほど執着していないうえに、これほどつれなくされたことに興醒めていたが、頭中将がしきりに言い寄っているのを知って、乳母子の命婦に相談した。
頭中将が、恋の駆け引きに勝ったと思ったら癪だからである。
「姫君が返事をくださらないので、無視されているようで情けない。浮気者とお疑いなのだろう。すぐに心変わりする男ではないのに。これまでは相手の女が気持ちにゆったりしたところがなく短気だったので、心外な結果になったのだ。それなのに、いつもわたしの浮気のせいにさせられた」
「姫君は、とても恥ずかしがり屋です。珍しいくらいの人見知りです」
「利口ぶったり才気走ったりしたところはないんだね。女はあどけなくて控えめで、おっとりしているのがかわいい」
そういいながら、源氏は、あどけなくて控えめでおっとりしていた夕顔を思い出していた。
瘧(わらわ)病みを患ったり禁断の恋愛事件を起こしたりして、心にゆとりのないまま春がすぎ夏が過ぎた。
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