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末摘花⑦光源氏と頭中将

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石山寺の源氏間で執筆する紫式部 
 『執筆する紫式部』歌川豊国筆 石山寺「源氏の間」

末摘花1
 頭の中将、光源氏を呼び止める

「あそこに誰かいる。あの好き者はだれだろうか」

源氏はその男に気づかれないように、抜き足差し足で立ち去ろうとした。

女の邸(やしき)から出てきた男が、女の邸を垣間見ている男に声をかけるのはいかにも間が抜けている。

しかし妙なことに、邸を垣間見ていたほうの男が邸から出てきた男に近寄って来た。

頭の中将である。

頭の中将は、源氏が宮中を退出してから左大臣邸に寄ることもなく二条院にも帰らず、あらぬ方角に向かったので、「どこへ行くのだろう」と好奇心にかられたのだった。

自分にも約束している女がいたが、源氏の後を付けたのだ。

源氏が常陸宮邸の大輔の命婦(たいふのみょうぶ)の部屋に入ったので不審に思っていると、琴(きん)の音がかすかに聞こえてくる。

しばらく耳をすまして聞いていると、源氏が邸から出てきた。

そして、忍び足で立ち去ろうとしている。


当時の教養人たちは、なにかにつけて和歌を詠んだ。

『源氏物語』の登場人物たちも、むろん例外ではない。

作者は、たいへんだ。

紫式部はさまざまな状況下、各人各様の個性と立場で当意即妙の和歌を詠んでいる。

散文も韻文もお手のもののようだが、物語‎作者(小説家)としては世界に令名を馳せているものの歌人としてはあまり評価されていない。

頭の中将が恨みがましく、

○もろともに  大内山は  出で連れど

    入る方見せぬ  十六夜の月

いっしょに宮中(大内山)を退出したのに行く先を晦ますあなたは十六夜の月のような方だ

源氏は女の邸を垣間見ていた男が頭の中将と分かると、少しおかしかった。

○里わかぬ  かげをば見れど  ゆく月の

    いるさの山を  誰れかたずぬる

どこの里にも遍く照らす月を眺めはしても、その月が隠れる山までだれが訪ねよう

ふたりとも約束している女がいたが、からかいあっているうちに別れがたくなった。




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