六条御息所(ろくじょうみやすどころ)の生霊
そういうタイプの女が紫式部の周辺にいて、苦々しく思っていたのかも知れない。
ここで、「女に嫌われる女」夕顔の凄惨な運命をざっとおさらいしておきたい。
一般論ではなく、『源氏物語』に即して具体的に書こうとすると「嫌われる」という語句は軽すぎる。
夕顔が頭の中将(左大臣の息子)と深い仲になって娘をもうけていることを頭の中将の正妻・四の君が知るところとなった。
ときの権力者・右大臣の娘である四の君は、見るからに怖しそうな男たちに命じて夕顔を脅しにかかる。
夕顔は屋敷を逃げ出して、市井の人々の住む都の一角でひっそりと暮らすようになった。
そんなとき、源氏が重い病に伏せている乳母を見舞うために近くへやってくる。
夕顔は覆面をしている貴公子が源氏であろうと見当をつけて、和歌を書き送った。
○心あてに それかとぞ見る 白露の
光そへたる 夕がほの花
あて推量ですが、「源氏の君かしら?」と思っております。あなた様の白露のような麗しさで、夕顔の花が一段と美しく見えます
身分制社会おいて、中流階級の夕顔が最上流の源氏になれなれしい和歌をわたせるのだろうかとの疑問があるが、夕顔にはあらゆる事象を男と女の関係に還元する特殊能力があったと思えば納得できる。
学生時代の同級生に、いつも「わたしは女、あなたは男」という感じで接してくる女子がいた。
ほかの女子にはない独特のコミュニケーション能力に何人かの男子がやられたものだ。
和歌をきっかけとして、源氏と夕顔は懇ろになる。
そのころ、源氏は六条御息所のもとへ通っていた。
亡くなった前東宮(皇太子)の未亡人だが、飽きてきていた。
源氏の足が遠のいた理由が夕顔の存在にあることを知った御息所は、生霊となって、源氏と同衾している夕顔に襲いかかって取り殺した。
「源氏の君は、こんな卑しい女と」
つまり、夕顔は頭の中将の正妻に脅されて屋敷を追われたあと、源氏の愛人に殺された。
これは、「女に嫌われる女」というレベルの話ではない。
ある日、源氏は夕顔のやわらかな人柄を懐かしんでいた。
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