「執筆する紫式部」 石山寺・源氏の間
恋焦がれてきた藤壺を目の当たりにして、源氏は切なさに胸を締め付けられた。
*作者はここで、読者が知らされていない事実を明かす
藤壺は、「かつての密通」を思い出すだけでも辛かった。
そのとき、藤壺はかたく心に誓った。
「これで、終わりにしなければ」
*紫式部は性愛の場面はほのめかす程度で、具体的な描写はしない。映画やドラマなどの映像作品でどうぞ。なお、和歌が795首ある
「ところが、またこのようなことに」
不意の出来事に藤壺は困惑したが、それでいて源氏を責めることはなく凛として奥床しい。
源氏、
○見てもまた 逢ふ夜まれなる 夢のうちに
やがて紛るる 我が身ともがな
ようやくお逢いできましたが再びお目にかかれる夜はこないでしょう。わたしは夢のなかに紛れてしまいとうございます
涙にむせんでいる源氏がかわいそうで、藤壺、
○世語りに 人や伝へむ たぐひなく
憂き身を覚めぬ 夢になしても
後の世まで世間の語り草にされないかしら。この上なく辛いわたしの身の上を覚めることのない夢とみなしても
源氏は二条院にもどると、終日泣き伏した。
父の桐壷帝にあわせる顔がなくいやそれ以上に恐ろしくて内裏に参内せず、2、3日邸に籠っていた。
そのことかあって藤壺は病状が悪化したと思っていたが、何日か経ったころ、身体の変調が病気からくるものではないことに気がついた。
「この先、どうなることかしら」
藤壺は、つくづく浅ましく辛すぎる身の上を嘆く。
およそ3か月後、乳母の王命婦(おうみょうぶ)と弁という若い女房が、いつものように湯殿で藤壺の身体を洗っているときに気がついた。
里下りの時期からすると帝の皇子ではなく、源氏の子が藤壺のお腹に宿ったのだ。
事の重大さに、ふたりは震えた。
藤壺は身ごもったことを口外せず、悶々と悩みつづける。
7月に宮中に戻り「懐妊」したことを帝に報告するが、妊娠の兆候が遅れた理由を「物の怪」のせいにした。
帝は、「物の怪」を退散させるために大勢の僧侶たちを招いて加持祈祷をさせる。
貴族や女房らの多くは皇子(女)であることを疑わなかったが、藤壺のライバルであり先に桐壺の更衣をいじめ殺した弘徽殿女御の一派は納得していない。
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