平安京内裏(だいり)
北半分はハーレム*左中央に「藤壷」がある
僧都からの返事も似たような文面なので、源氏は残念に思って、2、3日後に惟光(これみつ)を鞍馬に遣わした。
「鞍馬に少納言の乳母(めのと)という女房がいる。会って、私のありのままの気持ちを伝えてくれ」
惟光は鞍馬につくと乳母に面会を申し入れ、源氏の姫君への思いをつぶさに話した。
「尼君様は、ご病気が快復したら都へ戻られます。その上で、お返事を差し上げます」
源氏は、その日のことを不安に思いながらも心待ちにした。
そのころ、「藤壺の宮の病状が重く、里下り(実家に戻ること)されている」という噂が流れた。
どうやら本当らしい。
源氏は、桐壺帝が藤壺の体の具合を心配して憔悴しきっている様子が気の毒で痛々しかったが、心の中では別のことを考えていた。
「この機会を逃したら、2度と二人きりで藤壺様と会えないだろう」
源氏は乳母の王命婦(おうみょうぶ)に幾度となく手引きを頼むが、王命婦にしてみれば有り得べからざることだ。
息子が、父親の妻と姦通することはまさに畜生道。
しかし、ある日、ついに王命婦が根負けして、源氏を藤壺の御帳台(みちょうだい)へ案内した。
藤壺は病床に伏せていた。
4歳のときから母とも姉とも慕い、憧れていた藤壺である。
しかし、12歳になって元服すると突然会えなくなった。
それまでは、帝の計らいで例外的に藤壺の部屋に自由に出入りして楽しく遊んでいた。
だが、元服して葵の上と結婚したその日に、一人前の男になったという理由で、風にゆらぐ御簾(みす)が鋼鉄の扉になった。
藤壺の顔をみるのは、それ以来である。
読者は、そう思わされている。
恋焦がれてきた藤壺を目の当たりにして、源氏は切なさに胸がいっぱいになった。
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若紫⑰源氏、藤壷の御帳台へ
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