『鞍馬の火祭』…毎年10月22日
…鞍馬の火祭
その頃、源氏は今でいえば高校三年の18歳。
僧都は、ゆっくり立ち上がった。
「阿弥陀堂で、初夜(そや*午後8時頃に行う勤行)のお勤めをして参ります」
僧都が部屋を出て行くと、源氏は部屋の外に立て巡らしてある屏風を少し開けて、女房を呼び、尼君に和歌を届けてくれるよう頼んだ。
○初草の…若葉の上を…見つるより…
…………旅寝の袖も…露ぞかはかぬ
芽生え始めた初草のように若々しいお姿を拝見してからというもの、私の旅寝の袖は涙の露ですっかり濡れて乾くことがありません
尼君は、和歌に目を通して驚きあきれた。
なんと、熱烈なラブレターである。
「まあ、艶っぽいお歌だこと。あの子をいったい幾つと思っていらっしゃるのでしょう。
また、わたしが以前、『生ひ立たむ ありかも知らぬ 若草を 後らす露ぞ 消えむ空なき』と詠んだ歌を、どうしてご存知なのかしら」
………………若紫⑦初草の生ひゆく末 参照
困惑したが、遅くなっては失礼になると思ってすぐに返歌した。
源氏の「求愛」の部分にはあえて触れず、「悲しみに涙を流す」という点だけを詠んで、源氏と自分たちとの境遇の違いを示した。
○枕ゆふ…今宵ばかりの…露けさを…
…………深山の苔に…くらべざらなん
(あなた様の)たった一夜の旅寝の寂しさがもよおす涙は、山奥で日夜わびしく暮らしている私たちの涙とは比べものになりません
「尼君様、恐れいりますが、幼い方のことでご相談したいことがございます」
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………………鞍馬の火祭