ホテルオークラ東京本館
国宝 『随身庭騎(ていき)絵巻 藤原信実作?』
惟光の案内で粗末な板葺の尼寺に入ると、夕顔の亡骸(なきがら)と屏風1枚隔てて右近がうつ伏していた。
夕顔の亡骸はまだ生前の姿のまま、楚々として可愛らしい。
源氏は夕顔の手を取って、声を限りに泣いた。
「どうか声だけでも聞かせておくれ。私たちはどんな前世の因縁だったのか。あんなに愛し合ったのに、先に逝ってしまうとは……」
しばらく涙に暮れてから、右近に声をかけた。
「わたしの邸へ行こう」
「幼いころから夕顔様にお仕えしております。亡くなられたからといって、今更どこへ行けましょう。火葬の煙にまじって、お供いたします」
「お前の気持ちも分かるが、この世は所詮無常なもの。後の世に、良寛和尚という御坊がおっしゃったそうだ。和歌とはいわず、俳諧とか俳句とかいうらしい」
○ 散る桜 残る桜も 散る桜
、
「今日か明日かは分からずとも、人は必ず散る。死に急ぐことはない。これからは私を頼りにしなさい」
心強いことを口にしたと思ったら、こう付け加えるところがいかにも源氏らしい。
「そういう私自身、これから生きていけるだろうか」
思わぬ時間の経過に気がついた惟光が促した。
「そろそろ夜が明けます。早く戻りましょう」
源氏は馬に跨って走り出しても後ろ髪を引かれ、何度も何度も後ろを振り返った。
夕顔との短いが楽しかった思い出がよみがえるのか、目には涙があふれている。
乗りなれている馬だが、夜道に涙、手綱さばきがたいそう危なっかしい。
賀茂川にさしかかったころ、身体がふらついてとうとう馬から滑り落ちた。
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…【鴨川+賀茂川→カモガワ】 ということなんでしょうね。
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