クリック→拡大 … … 『源氏物語』 主要登場人物系図
牛車
『紫式部日記絵詞』第三段 藤田美術館蔵
「それは困る」という源氏の意向を、惟光(これみつ)は分かっている。
「『死んではならない。落ち着きなさい』。右近をなだめました。右近はまだ、あの尼寺におります」
「私も気持ちが沈んで、死んでしまいそうだ」
「何がそんなにお辛いのでしょう。何ごとも、前世からの因縁でございます。秘密が漏れないよう、万事わたしが取り計らいます。ご安心ください」
「前世からの因縁と思いたいが、私のせいで夕顔が亡くなったことが辛い。私の軽はずみな浮気心がひとりの女を殺したと世間は非難するだろう。このこと、誰にも話してはならぬぞ」
「葬儀を頼んだ老僧にも、話しておりません」
源氏は、惟光の確かな気配りに安堵した。
二人のやりとりを漏れ聞いた女房らがひそひそ話している。
「何ごとでしょう。源氏の君は穢れたとか、参内しなかったとか。なにやら悲しそうね」
「惟光よ、そなたは反対するだろうが、火葬にする前の夕顔の亡骸を見ておきたい。牛車では人目につくから、馬で行く」
「そんな、軽率な」と、惟光は思ったが、
「心残りになってはいけません。早く出かけて、夜が更けぬうちに戻りましょう」
源氏は目立たないよう狩衣(かりぎぬ:普段着)に着替え、惟光と随身(ずいじん:ボディ-ガード)を伴って、ひそかに二条院をあとにした。
東山への夜道が、ずいぶん遠く感じられる。
立待ちの月(17日の夜の月)が昇ったころ、賀茂の河原にさしかかった。
東山の鳥辺野(とりべの:清水寺の南に広がる野 葬送地)あたりを見やると、いつもは気味が悪いのに今夜は怖いと感じなかった。
惟光の案内で板葺の質素な尼寺に入ると、夕顔の亡骸(なきがら)と屏風1枚隔てて右近がうつ伏していた。
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夕顔⑭亡骸と対面へ
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