夕顔を取り殺した美女は六条御息所の生霊であると『源氏物語』に書かれているわけではなく、状況証拠に過ぎない
石碑 【源語伝説 五條辺 夕顔之墳】 家屋の奥に
短く叫ぶと、物の怪のような女の幻影はふっと掻き消えた。
・物の怪…人に危害を加える邪悪な霊魂。
死霊や生霊や妖怪変化など様々な形をとる。
原因不明の病気や死は多く、「物の怪」のせいと考えられた。
この種の奇っ怪な出来事は昔の物語の中にこそあるものの、今の世の中で、これほどの異変が起こるとは。
ぞっとするほど恐ろしく、不気味である。
源氏の腕の中の夕顔はすっかり冷たくなって、早くも死相が現われている。
そして、事切れた。
右近が、恐怖に怯えて源氏にすがりついてきた。
このあと、右近は女房として源氏に仕える。
外では夜風が激しく吹きすさび、フクロウの陰鬱な鳴き声が聞こえてくる。
源氏はしばし呆然としていたが、「どうして、夕顔をこんな荒廃した邸なんかに連れてきたのか」と悔やんだ。
そして、12歳で元服した時からずっと心に秘めている「禁断の恋」に思い当たった。
「こんなに怖ろしい目にあうのは、今なお、あの方を心の深いところで求め続けている報いなのだ」と。
源氏はこれから夕顔の死体をどうすればいいのか、見当もつかなかった。
ただ、なんとしても秘密裏に事を運ばなければならない。
なぜなら、夕顔が義兄で友人の頭中将がさがしている愛人(or妻)と知りながら男女の関係をもち、事もあろうに死なせてしまったからだ。
源氏は、灯りを持ってきた従者に命じた。
「惟光を呼んでくれ。それから、もしいたら兄の阿闍梨(あじゃり)にも来るように伝えてくれ」
従者は惟光が訪ねていそうな女の家を何軒も探し回ったが、見つからなかった。
さすがに源氏の乳兄弟、惟光もなかなかの発展家である。
従者は源氏に復命した。
「阿闍梨殿は先日、比叡山に帰られたそうです。惟光殿は今どこにいるのか、分かりませんでした」
一番鶏が鳴くころ、ようやく惟光が戻ってきた。
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夕顔⑧物の怪
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