光源氏の引っ越し
母・桐壺更衣の実家→①内裏の淑景舎(しげいしゃ:桐壺)→②二条院 母里を桐壺帝が改築→③六条院(六条御息所の邸跡を改築)
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淑景舎(しげいしゃ 右列の上から2つ目) 平安京内裏
六条院復元模型
東本願寺の別邸、渉成園(枳殻邸:きこくてい)が擬せられている
翌朝、源氏は憎らしい空蝉のことで頭が一杯で、軒端荻に「後朝(きぬぎぬ)の手紙」を出さなかった。
後朝の手紙…男女が共寝した翌朝、男から女に手紙を出す風習があった
源氏はそのころ住んでいた二条院に戻ると、小君(こぎみ)を叱りながらぼやいた。
「お前がちゃんと手筈を整えていないから、姉上に会えなかったではないか」
「申し訳ありません」
「お前の姉上は、よほど私のことが嫌いらしいな。私は伊予介(いよのすけ)より劣るか」
小君が応えようもなく黙っていると、源氏が八つ当たりする。
「お前は可愛いいが、つれない女(ひと)の弟だからな。いつまで目をかけてやれるか分からなくなった」
源氏は気を取り直して、和歌を一首詠んだ。
○空蝉の 身をかへてける 木のもとに
なほ人がらの なつかしきかな
あなたは蝉が脱皮するように薄衣(抜け殻)を残して去ったけれど、あなたの人柄が懐かしく思われます
この和歌の冒頭「空蝉」により、小君の姉を空蝉と呼ぶ
どうやら源氏は空蝉の「容姿」ではなく、「人となり」に強く魅かれているようだ。
稀代の「イケメン」は、「面食い」ではなかった。
千年前の17歳の精神年齢は、平成の世でいえば何歳位に相当するのだろうか。
小君がこの和歌を空蝉のもとに届けると、姉に叱られた。
「あなたのせいで、困っているのよ。悪い噂が立つではないの。小君のためにも良くないわ」
空蝉は脱ぎ捨てた薄衣(うすぎぬ)が、源氏の手元にあることが恥ずかしくて仕方がない。
一方では、うれしくもあった。
源氏が本気で自分のことを想ってくれていると感じるからだ。
いつかのことが「一夜の戯れ」でなかったら、「いけないこと」と分かってはいるがどんなに嬉しいことだろう。
源氏からの手紙の隅に、和歌を書き留めた。
○空蝉の 羽におく露の 木がくれて
しのびしのびに ぬるる袖かな
蝉の羽におく露のように人目を忍びながら、あなたを想って涙に暮れております。
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空蝉⑭叱られた小君
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