小袿(こうちき:貴族女子が着る上着)
小袿を残して部屋を抜け出す空蝉(うつせみ)
抱き寄せると、軒端荻(のきばのおぎ)は目を覚ました。
何が起きたのか分からない様子だ。
彼女の意識がはっきりしないうちに、源氏は軒端荻その人に会いたさに今ここにいると思わせる作戦に出た。
お得意の「口説き文句」の連射である。
「ずっと以前から、お慕いしておりました。あなたのお姿を遠くからでも眺められたらと、時々兄上のお屋敷を訪ねるようになったのです。気紛れなんかでは決してありません。怖がらないで下さい」
軒端荻は次第に意識を取り戻すと、思いもよらない事態に驚いた。
「源氏の君が、なぜここに……」
軒端荻はまだ男女の仲を知らない生娘だったが、変にませていて慌てたり取り乱したりはしなかった。
源氏は今夜のことを大っびらにしないよう軒端荻に念を押す。
「私たちの仲は、二人だけの秘密にしておきましょう。その方が、男と女の仲は趣が深いものです。私は忘れないから、あなたも忘れずに待っていて下さい」
「私のほうからは、とてもお手紙を差し上げられません」
軒端荻は、源氏から愛される立場ではないことをわきまえているようだ。
「いいのです。私のほうからお手紙を差し上げます。あなたは何事もなかったようにしていて下さい」
そういうと、源氏は空蝉が残していた薄衣(うすぎぬ)を持って帰って行った。
翌朝、源氏は憎らしい空蝉のことで頭が一杯で、軒端荻に「後朝(きぬぎぬ)の手紙」を出さなかった。
後朝の手紙…男女が共寝した翌朝、男から女に手紙を出す風習があった
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空蝉⑬空蝉の薄衣
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