光源氏 夕顔 頭中将
『源氏物語五十四帖 夕顔』 歌川(安藤)広重
やはり17歳のころ、源氏は7歳年上の六条御息所(ろくじょうみやすどころ)のもとへ通っていた。
先の東宮(皇太子)の未亡人で、美しくて教養が豊かで気品に溢れている。
源氏が知り合う前、彼のライバルで義兄の頭中将(とうのちゅうじょう)ら男たちにとって、高嶺の花のような存在であった。
空蝉が中流なら、こちらは正真正銘の上流の女。
しかし、源氏はあまりにも理知的で毅然とした雰囲気を漂わせる六条御息所が鬱陶しくなっている。
本妻の葵の上と一緒にいる時に感じる気詰まりと似てきた。
会っていて、気持ちが晴れない。
その日、六条御息所のもとへ通う途中、むかし世話になった大弍乳母(だいにのめのと)が病をえて尼になっていると聞き、五条にある彼女の家に立ち寄った。
幼くして母を亡くした源氏を、わが子以上に大切に養育してくれた恩人である。
門に錠が掛かっているので、従者に惟光(これみつ)を呼んでくるように命じた。
惟光は大弍乳母の息子で、源氏とは乳兄弟(ちきょうだい)。
乳兄弟…同じ女性の乳を飲んで育った者同士に結ばれる擬制的兄弟
友人であり、忠実な部下でもある。
惟光が出てくるのを待っている間、あたりを見回していると、惟光の家の隣から、簾(すだれ)を透かして何人かの若い女たちが源氏一行をのぞいているのが見えた。
家の前に停まった牛車を見て、「だれが、乗っているのだろう」と噂しあっているのに違いない。
「どんな女たちなのだろう」
源氏は、なにやら不思議な家だと思った。
粗末な家屋で、塀には青々と蔓草が伝っている。
白い花をひそやかに咲かせているのは、夕顔だろう。
朝を待たずにしぼんでしまう、はかない命だ。
従者に命じた。
「夕顔を、一房折って来てくれ」
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夕顔①六条御息所と夕顔
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