今まで藤壺の部屋に源氏を伴っていた父の帝も、源氏の「元服」後はひとりで行くようになった。
12歳の「成人」は、「ずっと一緒にいたい」大好きな藤壺と、急に会えなくなってしまった。
会えなくなると、ますます恋心は募る。
藤壺のいる飛香舎(ひぎょうしゃ 藤壺)からもれてくる、やさしい声に耳を澄ませて心を慰めた。
たまに宮中で「管弦の催し」などがある時には、藤壺の奏でる琴の音に合わせて、笛を吹いて心を通わせようとした。
なお、例外中の例外だが、帝の計らいで、源氏は亡き母・桐壺の更衣に与えられていた内裏の淑景舎(しげいしゃ 桐壺)で暮らしている。
女房たちも、母に仕えていた顔ぶれがそのまま付けられた。
新婚ほやほやで、妻はまだ「正妻」の葵ひとりなのに、源氏はなかなか左大臣家に通おうとしなかった。
源氏クラスの最高貴族でも、やはり「通い婚」である。
3日間つづけて通わないと結婚は成立しないので、双方の親の手前、3日間は通ったはずだ。
葵の気持ちはともかく、父の左大臣は、「婿どのは、まだ少年だから」と気にする風ではなかった。
それどころか、源氏と葵のために格別にすぐれた女房を選び、源氏が喜びそうな催しの準備に余念がなかった。
「正妻」ははたして、夫が「心の妻」と同じ屋根の下にいることに気がついていただろうか。
初夜からギクシャクしている源氏が通ってこなくても寂しくはなかったかも知れないが、やはりプライドは傷つくだろう。
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