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藤壺⑥もうこの部屋には

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$吉備路残照△古代ロマン-千年の謎 光源氏(生田斗真) 桐壺更衣&藤壺(真木よう子) 葵の上(多部未華子) 桐壺帝(榎木孝明) 弘徽殿女御(室井滋) 藤原道長(東山紀之) 紫式部(中谷美紀)

$吉備路残照△古代ロマン-夕顔1  夕顔(芦名星)をとり殺す六条御息所(田中麗奈)   映画『源氏物語 千年の謎』


源氏と葵の新婚生活は、心の通わないよそよそしいものだった。

ふたりとも親の愛情を一身に浴びて、また女房たちの至れり尽くせりの世話を受けながら育ってきた。

他人に気を使うことが苦手だ、というより思いもしない。

「お山の大将」同士が一緒になったらどうなるか、という悪い例だろう。

もしかしたら、葵は、「どうせ愛情のない結婚ならば、臣下に降った源氏よりも皇太子のほうがよかった」と、心のどこかで悔やんでいたかもしれない。

もともとは皇太子妃になる予定だったのだ。

あるいは、夫の心の中には常に「他の女の面影」があるということに、「女の勘」とやらで気がついていた可能性だってある。

もしそうであれば、源氏の罪は深い。


思いを寄せている女がいるにかかわらず周囲の状況で別の女と結婚する罪と、ある女と結婚して初めて本当に愛している女の存在に気がつく罪。

源氏の場合は、むろん後者である。

ここでいう罪とは妻に対する「申し訳なさ」ほどの意味だが、夫は罪の意識をもちつつ、心の根っこの部分に「欠落感」を抱えたままに一生を送ることになる。


この論法で、「女」と「男」を入れ替えたらどうなるか。

何年か前、ある文芸雑誌における女流作家だけの鼎談(ていだん:3名による座談会)の中で、若いころに派手な男性遍歴を重ねて世間を賑わしたという老作家が語っていた。

「女は引きずらないから割と平気だし、よくある話よね」

「よくある話」かどうか知らないが、もしそうであれば、女のほうが男より世渡りが上手いのだろう。


源氏が左大臣家から宮廷に戻って、今までそうしてきたように藤壺の部屋へあいさつに行くと、藤壺の決意に満ちたきっぱりとした言葉が、御簾の向こうから聞こえてきた。

「元服なさったからには、あなたは立派な一人前の男性です。もう、この部屋に入ることはなりません」



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