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平家物語 建礼門院⑭六道輪廻

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「この国は辺境にある粟粒のように小さな国ですが、あなたが前世で積んだ功徳によって、高倉天皇の中宮(皇后)となり、安徳天皇の母(国母)となって、何一つ心に叶わないことのない身分となられました」

「仏法の世に生まれ、しかも仏道修行を実践されているので、後生の極楽往生は疑いありません」

「それにしても、有為転変は世の習いであり今さら驚くことでもありませんが、あなたの変わり果てたお姿を拝見していると遣る瀬なく、哀れをもよおします」

涙声になった後白河に続いて、再び建礼門院が語りだした。

自らの来し方を、仏教の世界観である六道になぞらえる。

「わたしは平清盛の娘に生まれ、安徳天皇の母となって、天下は思いのままでした。新年の行事が催される春の初めから、華やかな衣替え、仏名会の催される年の暮れと、一年を通して、摂政をはじめ大臣や公卿に手厚くもてなされました」

「文武百官で、私を仰がない者はおりません」

「御所の清涼殿や紫宸殿において、四季折々の楽しみに心をときめかせて暮らしておりました。明けても暮れても楽しいことばかり。天上界の幸せも、これほどの喜びに満ちたものではあるまいと思われました」

「ところが、寿永2年の秋のこと」

木曽義仲という者を恐れて、一門は住みなれた都を遠く離れました。故郷を焼け野原にして眺め、『源氏物語』で名前だけは知っていた播磨国の須磨から明石の海岸を伝って落ちて行った時は、何とも哀れでした」

「昼は大海原の波を分けて袖を濡らし、夜は千鳥とともに泣き明かしました。浦々や島々にはそれぞれ由緒があるのでしょうが、やはり都のことが忘れられません」

「愛別離苦(愛する者と別れなければならない苦しみ)や怨憎会苦(おんぞうえく:怨み憎む相手と会わねばならない苦しみ)など全ての苦しみを、およそ人間界に起こるあらゆる辛酸をなめました」

★先日投稿した記事をうっかり消したので、本文を改めて書くついでに題名も変えました。


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