(じゃっこういん:天台宗) 左京区大原
「山里はもの寂しいでしょうが、何かと辛いことの多い世間よりは住みやすいことでしょう」
建礼門院は、亡き安徳天皇と平家一門を供養するためにも草深い大原の里に隠棲することにした。
輿(こし)など必要な物は、妹である藤原隆房の北の方が用意してくれた。
兄・平重衡の北の方・大納言典侍(だいなごんのすけ)と阿波内侍(あわのないし:信西の娘)が、ともに尼になって同行。
信西(しんぜい 藤原通憲):清盛の前の最高権力者
文治元年(1185)9月下旬、建礼門院は洛北・大原の寂光院へと旅立った。
吉田から大原への道すがら、山間にはいって輿の中から色づきはじめている木々の梢を眺めていると、いつの間にか夕闇が迫っている。
近くの寺の入相の鐘が、うら寂しく響いてきた。
踏み分ける草葉にはたくさんの露が結び、供の者らの袖はすっかり濡れそぼっている。
一陣の風が、激しく木の葉を乱した。
空はにわかに曇って、いつしか時雨れはじめた。
悲しげな鹿の鳴き声が、かすかに聞こえてくる。
さまざまな思いが建礼門院の胸を去来して、心細さは譬えようもない。
源義経の軍勢に追われて、一門の者と瀬戸内海を逃げ惑っていた時も、これほど心細くはなかった。
長い上り坂を揺られていると、輿が止まって地面に降ろされた。
そして、輿を出るよう促された。
目の前のいくぶん高いところに、寂光院はあるという。
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文学史は、『平家物語』を「戦記文学(軍記物)」に分類するが、勇ましい戦闘場面の割合はいたって少ない。「恋愛文学?」の『源氏物語』の方が、よほど生命力は横溢しているでしょう。
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