……建礼門院 (平徳子)
壇の浦の戦いにおける壊滅的な敗北によって、平家一門は実質的に滅び去った。
そして、六代の死によって、嫡流が絶えた。
その六代の死をもって、全12巻からなる『平家物語』の本編は終わる。
その後に、『灌頂(かんじょう)の巻』が添えられている。
壇ノ浦に身を投げるが、海底に沈んでゆくとき源氏の武者によって引き上げられた建礼門院徳子の後日譚である。
徳子は、平清盛と時子(二位の尼)の娘で、高倉天皇に嫁して安徳天皇を産んだ。
いわば、栄華を極めた平家一門の象徴のような存在である。
源平の最終合戦に決着がつくと、源義経によって都へ連れ戻された。
そして、文治元年(1185)5月1日、東山の麓の吉田に住居を与えられる。
もとは奈良法師の僧坊だった草庵で、家屋も庭も荒れ果てていた。
廃屋同然で、雨風も凌げない。
季節柄、花は色とりどりに咲いてはいるが、手入れする人はいなかったようだ。
月は夜ごとに射し込むが、ともに眺め明かす相手はいない。
かつては、高倉の中宮として宮中の奥深く、錦の帳の内で暮らしていた。
しかし、今や、夫や親・兄弟姉妹・子供など縁の深い多くの人々と幽明境を異にしている。
陸に上った魚のように、あるいは巣を離れた鳥のように孤独である。
瀬戸内海を源氏勢に追われて逃げ惑った波の上、せまい船室で二位尼や安徳や女房たちと肩を寄せ合って暮らしていた日々すら懐かしく思われる。
悲しみと寂しさは言葉にならない。
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