文覚房
新大納言は六代の身を案じて一晩中まんじりともせず、床が涙に浮くほどに泣き明かす。
時を告げる役人が朝を知らせて、夜が明けた。
しばらくすると、斎藤六宗光が戻ってきた。
新大納言が尋ねる。
「六代は、どうしていますか」
「お元気です。お手紙を預かって参りました」
次のようなことが書いてある。
「母上はさぞかし心を痛めておられるでしょう。私は今のところ別状ありませんが、そちらのことを恋しく思っております」
新大納言は手紙を顔に押し当ててから懐にしまうと、ものも言わず着物を被って臥せてしまった。
斎藤六宗光が催促した。
「若君のことが気にかかります。お返事を頂いて戻ります」
新大納言は泣く泣く返事を書いて渡した。
斎藤六宗光は別れの挨拶をすると慌ただしく帰って行く。
乳母はやるせなくて宿坊を抜け出し、周辺を泣きながら歩いていた。
すると、ある人が教えてくれた。
「この奥の高雄という山寺に、文覚房という聖がおられます。源頼朝殿がとても大事に思われている方で、貴人のお子を弟子に欲しがっておられます」
一筋の光明を見いだした乳母は、そのまま高雄に急いだ。
そして文覚房の前に、崩れ落ちた。
「出産のときに抱き上げてからずっと育ててきた若君を、昨日、鎌倉の武士に奪われました。どうか御命をもらい受けて、御坊のお弟子にして頂きとう存じます」
それだけ言うと、身も世もなく泣き伏してしまう。
文覚房は、哀れに思って子細を尋ねた。
乳母はややあって起き上がると、涙をこらえて説明した。
「小松三位中将維盛様の北の方と親しくされている方の若君をお養いしていたのですが、もしかすると、その若君を『維盛様の若君だ』と誰かが言ったのでしょう。昨日、鎌倉の武士に奪われてしまいました」
乳母は、若君(六代)が維盛の子であることをウソをついてまで隠している。
平家の嫡流であることを明かせば、とても助けてはくれまいと思ったのだろうか。
「鎌倉の武士とは、だれなのですか」
「北条時政と名乗っていました」
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秋元康氏によると、前田敦子と高橋みなみはジョン・レノンでありポール・マッカートニーだそうです。
秋元氏という人物で感心することの一つは、AKB48を立ち上げたときのメンバー募集に応募してきた7924名の中から、たった24名(330倍超)のうちの一人に前田敦子を選んだこと。
14歳の時に受けたオーディションを見ると、いかにも山出しで地味で根暗な感じ。
「オレが、ワタシが」の芸能界とはほど遠い印象です。
しかし、秋元康氏には彼女の将来が見えたのでしょう。
確かに今や、スター性を身にまとっています。
秋元氏の人を見抜く力、異能としか言いようがない。
前田敦子がトニー・レオンや松田翔太と共演する日中合作映画『一九〇五』が、尖閣問題で中止になったこと甚だしく残念です。
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平家物語の群像 六代と文覚①一筋の光明
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