北条氏系図 (北条は平氏)
時政の軍勢が、六代のいる菖蒲谷を取り囲んだ。
時政は、使いの者に伝言させた。
「小松中将維盛殿の若君・六代御前が、こちらにお住まいとお聞き致しました。源頼朝の代官・北条時政がお迎えに参っております。早々にお出まし下さい」
母の建春門院新大納言(以下、新大納言)は、「いつか、この日は来るだろう」と覚悟はしていたが、それでも激しく動揺して呆然と立ち尽くした。
両膝が震えて、止まらない。
斎藤五宗貞と斉藤六宗光が菖蒲谷の周辺を見渡すと、源氏勢がびっしり周囲に押し寄せている。
新大納言は、息子を抱き上げて涙ながらに叫んだ。
「どうか、お願いです。この子の代わりに、私を殺して下さい。どうか、私を殺して下さい」
日ごろから六代の身の回りの世話をしている乳母も、倒れ臥して声を限りに泣き叫んでいる。
絶望とは、こういうことか。
宿坊ではこれまで大きな声など決して出さずひっそりと暮らしていたが、今、女房たちの泣きわめく声で阿鼻叫喚の坩堝と化している。
時政はさすがに憐れに思い、しんみりしながら待っていた。
しかし、六代はなかなか出てこない。
しばらくして、また人を遣わした。
「まだ世が鎮まってはおりません。おかしなことが起こるかもしれません。時政が、お迎えに参ります。お急ぎ下さい」
12歳の六代が、けなげにも母親を慰める。
「母上、もはや逃れられません。私を宿坊から出して下さい。鎌倉勢が乗り込んで家捜しでもしたら、大変なことになりましょう。すぐに戻ります。そんなに悲しまないで下さい」
新大納言は泣きながら息子に衣を着せ、髪を櫛でとかして送り出すとき、黒檀の小さな美しい数珠を渡した。
「最期の時は、この数珠で念仏を唱え、必ず極楽浄土にお行きなさい」
「母上とは今日でお別れです。父上のおられるところへ参ります」
六代が宿坊を出ようとすると、10歳になる妹の夜叉御前が、「私も参ります」と兄に駆け寄った。
乳母が、六代から夜叉を引き離した。
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森喜朗氏と鳩山由紀夫氏が首相在任時は特に、「この人物が総理で、日本は大丈夫か」とハラハラしていた。
鳩山氏が今なお無神経に国賊的な言動をする一方、森氏は安倍晋三氏の兄貴分(というより叔父貴分)として貢献してくれている。
外交といえど、とどのつまりは人間関係だろうから、相手国のトップ(プーチン大統領)と親密な関係を結んでいる森氏の存在は有り難い。
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平家物語の群像 頼朝の布石⑬母と子の別れ
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