六代母子が隠れ住んでいた菖蒲谷
京中の者たちが、「褒美をもらおう」と平家一門の子孫を捜し回った。
一門とは関係のない者の息子でも、色白で美しい顔立ちをしていると、「○○中将の若君だ」、「○○少将の公達だ」などと言いつのっては、褒美にありつこうとする。
時政は、幼い者は水に沈めたり、土に埋めたりした。
やや成長している者は締め殺したり、刺し殺したりした。
母親の悲しみや、乳母の嘆きは例えようもない。
ここに平家一門の遺児の中でも、別格の存在がいる。
平正盛ー忠盛ー清盛ー重盛ー維盛ー六代とつづく、嫡流の六代御前(高清)だ。
ちなみに「六代」とは、伊勢平氏中興の祖・正盛から六代目という意味である。
かつて清盛が非情に徹することができず、頼朝と義経を助けたばかりに平家は滅び去った。
いつ立場を逆にして、同じことが起こるかも知れない。
時政は、部下に命じて必死に六代を捜させたが、どうしても見つからない。
そんなある日、一人の女房が六波羅に来て時政に密告した。
「大覚寺の北の菖蒲谷という所に、亡き維盛様の北の方と若君と姫君が、暮らしておられます」
「まことか!!それは」
さっそく部下をやって様子を探らせると、ある宿坊に多くの女房たちと幼い子供たちが人目を忍ぶようにして住んでいた。
生垣の隙間からのぞくと、庭へ走り出た白い子犬を追って、世にも美しい幼い男の子が出てきた。
乳母らしい女房が、「若君、なりません。人が見ているかも知れません」
あわてて中へ引き戻した。
「若君」ではなく「姫君(若紫)」だが、似たような場面が『源氏物語』にある。
200年ほど前に書かれた『源氏』を、意識してのことであろう。
部下は、「六代殿に間違いありません」と時政に報告した。
翌日、時政は軍勢を率いて菖蒲谷を囲んだ。
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