宗盛は夜になっても装束(しょうぞく:貴族の衣服)を解こうとせず片方の袖を頭の下に敷いて横になっていたが、隣で寝ている息子の清宗に自分の浄衣をかけてやった。
その様子を見ていた警護の侍たちは、感涙する。
「ああ、身分の高い人も我々と同じなのだ。恩愛の情ほど切ないものはない。浄衣をかけても変わりはないものを。愛情がさせるのだなぁ」
宗盛は平家の棟梁としては落第の烙印を押されているが、とても優しい父親だったようだ。
将軍や政治家というより、おだやかな家庭人だったのだろう。
時忠は義経の屋敷近くにいたが、嫡男の時実(ときざね)にたずねた。
「洩れてはならない手紙を1通、義経に没収された。もし鎌倉の頼朝が読んだら多くの人が殺され、われらも助かるまい。どうしたらよいものか」
「義経は勇猛な武士ですが、女の訴えには耳を傾けると聞いております。姫君たちのうち、だれか一人を義経に差し出して、二人が親しくなってから、手紙の件を切り出させたら如何でしょう」
「平家が世に栄えていた時は、娘たちを女御や后にしようと思っていた。あの程度の者に嫁がせようなどとは露ほども思っていなかったものだが……」
「今はそのようなことをお考えになってはなりません。17歳になる北の方の姫君を差し出しては如何ですか」
時忠はその娘をたいへん可愛がっていたので、22歳になる先妻の娘・蕨(わらび)姫を嫁がせた。
気立てが良く眉目秀麗な蕨姫を、義経は喜んで迎え入れる。
妻の河越重頼の娘・郷御前(さとごぜん)を別のところへ移し、屋敷に新しく座敷を設けて、そこへ蕨姫を住まわせた。
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