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Channel: 吉備路残照△古代ロマン
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平家物語の群像 義経26扇の的と那須与一

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$吉備路残照△古代ロマン-扇の的 扇の的と那須与一


「このたび鎌倉を発って平家討伐に赴く者らは、義経の命に背いてはならぬ。従う気のない者は、すぐに鎌倉へ帰れ」

与一は、思い直した。

「承知しました。ご命令ですので、やるだけやってみます」

御前を退くと、太くたくましい黒馬に、丸海鞘の紋が描かれた金覆輪の鞍を置いて乗った。

そして滋籐の弓を持ちなおし、手綱をさばいて、波打ち際へ馬を進めた。


坂東武者たちが与一を見送りながら、「あいつなら必ず射止めるに違いない」と話している。

彼らの話を耳にした義経は、与一の後姿を頼もしそうに眺めていた。

扇の的までやや遠いので、与一は、海の中に一段(11m)ほど入ったが、
それでもまだ扇までの間合いは七段はあるように思えた。

2月18日の酉の刻(夕方5~7時頃)。

北からの風は激しく、磯に打ち寄せる波は高い。

舟は波に大きく揺られ、扇はひらひら動いて定まらない。

沖合には、平家方が何艘もの船を並べて見物している。

陸では、源氏勢が馬を並べて眺めている。

「扇の的」と「与一の武者振り」の取り合わせが一幅の名画を見るようで、
源平両軍とも晴れがましい雰囲気に包まれていた。

与一は、目を閉じた。

「南無八幡大菩薩、我が国の神明、日光権現、宇都宮大明神、那須湯泉大明神、願わくは、あの扇の真ん中を射させて下さい。もし外したら、ただちに弓を折って自害します。
もう一度、那須へ迎えてやろうと思って下さるのなら、どうか矢を外させないで下さい」

心の中で祈り、目を見開いた。

風がおさまって、扇を射やすくなっている。

与一は鏑矢(かぶらや)を取って弓につがえ、引き絞ってひゅっと放った。

小兵といえど、十二束三つ伏せ、弓の張りは強く、鏑矢は海辺に響き渡るほどに長鳴りして、
扇の要から一寸ほどのところをみごとに射切った。

扇は空へ高々と舞い上がって、春風に一もみ二もみ揉まれると、さっと海に散った。


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