時頼は、草深い嵯峨まで会いに来てくれた横笛がますます愛おしくなったことだろう。
今度また横笛の顔を見たら、思わず僧坊を飛び出して抱きしめるかも知れない。
時頼は、同宿の僧に告げた。
「往生院は静かで修行の場にふさわしいのですが、好きでたまらない女にここを知られたようです。今日は、自分の気持ちを抑えることが出来ました。
だが、次は自信がありません。往生院を出ようと思います」
時頼は、女人禁制で知られる高野山の清浄心院で修行にはいる。
すると、横笛は中宮徳子のもとを去って出家、尼になった。
時頼に会える望みを断たれ、せめて仏道の世界で時頼と繋がっていたかったのだろうか。
奈良の、光明皇后ゆかりの法華寺に入った。
横笛が出家したと聞いて、時頼は一首の和歌を送る。
○ そるまでは 恨みしかども あづさ弓
まことの道に 入るぞうれしき
あなたが尼になるまではこの世を恨んでいたけれど、あなたがまことの道に入ったと聞いてうれしい。
横笛の返歌。
○ そるとても 何かうらみん あづさ弓
引きとどむべき こころならねば
尼になっても、どうしてあなたを恨みましょう。あなたの心は引き止められませんから。
しかし、ほどなく横笛はこの世を去る。
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