横笛の恋塚 和歌山県伊都郡かつらぎ町天野の里
横笛は、時頼とともに生きていこうと心に決めていた。時頼も、同じように思ってくれていると信じていた。
時頼は他の女には目もくれず、一途に自分だけを愛してくれている。
いや、そういうことを取り立てて意識することすらなかった。
ただ、お互いの間に信頼感と 「生涯の伴侶」 という空気が通い合っていただけである。
しかし、時頼の出家によって、すべての 「想い」 と 「空気」 が、一挙に打ち砕かれてしまった。
時頼が、別の世界に行ってしまったのだ。しかも、横笛には何の連絡もなく。
会えないとなれば、想いはますます募る。
会いたい。
「(原文) 我をこそ捨てめ。様をさへ変へけん事の恨めしさよ。たとひ世をば背くとも、などかは、かくと知らせざるべき。人こそ心強くとも、尋ねて恨みん」
私を捨てたのは仕方がないが、出家したのが恨めしい。また、なぜ知らせてくれなかったのか。はねつけられてもいい、訪ねて恨みを言おう。
2月10日過ぎの夕暮れ、都を出て嵯峨の方へ歩き出した。
梅津の里では、梅のほのかな甘い香りが早春の風にのって漂ってきた。
大堰(おおい)川には、春霞にこめられて朧月が映っている。
しみじみとした物の哀れを、いったい誰のせいで味わうことになったのやら。
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平家物語の群像 横笛③生涯の伴侶
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