Quantcast
Channel: 吉備路残照△古代ロマン
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1644

平家物語の群像 文覚⑮文覚坊、上臈の子を弟子にせん

$
0
0

$吉備路残照△古代ロマン-弁財天と北条時政  弁財天と時政  歌川国貞画

ふだんは大きな声など出さずひっそりと暮らしていたが、今は宿坊にいる者たちは声をあげて泣き叫び、悲しんでいる。

時政もさすがに憐れで、涙をこらえて待っていたが、また人を遣わした。「まだ世の中が鎮まっていないので、おかしなことが起こるかもしれません。源頼朝の代官、北条時政がお迎えに参りました。急いでお出まし下さい」

六代はけなげにも、建春門院新大納言にいった。「母上、もはや逃れられません。私をここから出して下さい。鎌倉武士が乗り込んで来たら、ひどいことになりましょう」

母は、泣きながら六代に衣を着せ櫛で髪をとかして送り出したとき、黒檀の小さくて美しい数珠を持たせた。「最期の時が来たら、この数珠で念仏を唱えて極楽浄土に行きなさい」

六代が受け取って、「今日でお別れです。父上のおられるところへ参ります」と言うと、10歳になる妹夜叉御前が、「私も参ります」 と兄とともに出ようとしたのを、乳母が引き止めた。

六代は12歳だが世間の14~5歳よりも大人びて、容姿も性格も優雅。御輿に乗ると、武士たちが取り囲んで出発した。

斎藤五宗貞と斉藤六宗光も、御輿の左右に付き添った。時政は乗換馬を用意して、ふたりに、「馬に乗れ」 とすすめたが、嵯峨の大覚寺から六波羅まで裸足で歩いた。

建春門院新大納言と乳母は、天を仰ぎ地に伏して泣いた。



数日後、斎藤六宗光が戻ってきて、六代から預かってきた手紙を建春門院新大納言に渡した。

「私は、何事もなく元気にしております。母上は、さぞかし心細いことでしょう」 などと大人びたことを書いてある。手紙を懐に入れると、黙って衣を被って臥せた。

六宗光が、「若君が気になります。お返事を頂いて戻ります」 というと、建春門院新大納言は涙ながらに手紙を書いた。

乳母が大覚寺を抜け出して周辺を泣きながら歩いていると、ある人が、「高雄の神護寺に文覚房という聖がおられます。
源頼朝殿がとても大事に思われている御坊で、貴人の御子を弟子に欲しがっていられるそうです」 という。


英傑の日本史 源平争乱編 (角川文庫)/角川学芸出版

¥580
Amazon.co.jp

英傑の日本史 信長・秀吉・家康編 (角川文庫)/角川学芸出版

¥580
Amazon.co.jp

英傑の日本史―新撰組・幕末編 (角川文庫)/角川書店

¥620
Amazon.co.jp


Viewing all articles
Browse latest Browse all 1644

Trending Articles