文覚と安藤はいずれ劣らぬ怪力で、上になったり下になったり転がりながら取っ組み合っているところを、
周りの者たちが寄ってたかって、文覚を取り押さえた。
門外へ引きずり出して、検非違使庁の役人に渡した。引っ張られながらも御所の方を睨みつけ、躍り上がってどなる。
「寄進もせず、文覚をひどい目に会わせるとは。今に思い知らせてやる。この世は煩悩と苦しみに満ちている。天皇や法皇といえども、免れることはできない。
黄泉に旅立った後は、獄卒の責めを免れることはできぬ」
「この法師はとんでもないことを言う。牢屋へ閉じ込めておけ」
平資行判官は烏帽子を打ち落とされた恥ずかしさに、しばらくは出仕しなかった。安藤右宗は文覚を取り押さえた褒美として、右馬允 (うまのじょう) に昇進。
ほどなく、鳥羽天皇の皇后美福門院得子が崩御して大赦があり、文覚は放免となった。
ほとぼりが冷めるまで仏道修行に励んでいればいいものを、すぐに勧進帳を携えて施主を勧誘して回った。
しかも、「世の中はすっかり乱れて、君主も家臣も滅び失せようとしている」 などと言いふらす。
「文覚を都に置いておくわけにはいかん、流罪にせよ」 と伊豆国に流される羽目になった。
そこで、平家打倒をそそのかす源頼朝に出会うことになる。
当時、伊豆は源三位の嫡子仲綱が国守。仲綱の命により船で下ることになり、検非違使庁の役人が2、3人随行した。
役人が、「手心を少しは加えられます。聖の御坊に知り合いはありませんか。遠国へ流されるのです。土産や食い物などを求められてはどうでしょう」 と親切なことをいう。
「そのようなことを頼める者はいない。いや、東山におられる。手紙を書こう」
役人が粗末な紙を渡すと、怒って、「こんな紙に書けるか」 と投げ返した。
厚紙を探してくると、笑って、「字を書けないのだ。いう通りに、おまえら書け」
「高雄の神護寺造立供養のために、勧進帳を携えて施主を勧誘して歩いておりますが、後白河法皇の世となって、寄進を頂けないばかりか、伊豆国へ流罪になりました。遠路ですから、土産や食糧などが必要です。使いに持たせて下さい」
書き終えて、「宛先はどなたへ」 尋ねると、「清水の観音様」
文覚さん、痛快なまでに人を食ってる。
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