祇王寺と奥嵯峨周辺
またしても清盛に辱めを受けた祇王は、刀自の顔を見ると、こらえていた悲しみがいっぺんにこみ上げてきた。
「母上の言いつけに背くまいと、お屋敷に出かけました」
だが、もう耐えられない。
「この世にある限り、どれだけつらい目に遭わされるか分かりません」
祇王は、刀自に身を投げる決意を明かした。
「わたしも、お姉様にお供します」
そばで聴いていた妹の祇女も、死ぬという。
刀自は、ふたりの娘に先立たれては生きていけない。
「清盛公のお屋敷で、それほどつらい目に遭おうとは思わなかった。許しておくれ。お前たちが逝って、年老いた私だけが生き残っても仕方がない」
娘たちと一緒に死のうと思ったが、み仏の戒めが頭をよぎる。
「私が死ねば五逆罪の一つ、母を殺す罪にあたる。この世は仮の世、どんな恥も忍ぼう」
しかし来世までも、お前たちふたりに罪を背負わせるわけにはいかない。
「確かに親殺しは五逆罪の一つ。死ぬことはあきらめます。どこか遠い所に行きましょう」
死ぬことを思いとどまった祇王は、俗世を捨てることを決意。
時に、祇王21。
髪をおろして尼になり、嵯峨野の山里にかくれ、庵を結んた。
19歳の祇女も、つづいて出家。
45になる刀自もまた、髪を剃って仏門にはいった。
しかし念仏生活に入ったからといって、祇王の心のいた手がすぐに癒されるわけではなかった。
念仏を一心に唱えようとしても、清盛の心ない仕打ちを思い出しては、気持ちが波立つ。
仏御前の顔が浮かんでは、心が乱れる。
悲しい運命に気持ちは沈みがちで、涙々の明け暮れである。
悟りの境地は、はるかに遠い。
京都の歴史を足元からさぐる―嵯峨・嵐山・花園・松尾の巻/森 浩一
¥2,310
Amazon.co.jp
祇王・仏 (京の絵本)/村中 李衣
¥1,890
Amazon.co.jp
祇王の涙 京都路奥嵯峨殺人事件 (ジョイ・ノベルス)/秋月 達郎
¥900
Amazon.co.jp
↧
平家物語の群像 祇王⑦出家、奥嵯峨へ
↧