祇王寺の門 京都嵯峨野
あまりの屈辱に、祇王はしばらく返事をしないでいた。
すると清盛から、「なぜ来ない。来ないなら、こちらにも考えがある」
横暴な権力者の、脅しのような催促である。
さすがに母の刀自がみかねて、
「清盛公に、返事だけでもしなさい」
祇王はかぶりを振って、
「行くつもりなら返事をします。行くつもりがないのです。捨てられた身が、どうして今さら清盛様にお目にかかれましょう」
「都に住むからには、清盛公のご命令には背けないよ」
さとす刀自に、祇王は、
「考えがあると仰るからには、都から追い出されるか命を召されるかでしょう」
そして、覚悟したかのように、
「都から追放されても構いません、命など惜しくはありません」
「お前と祇女は若いから、田舎暮らしもできよう。年老いた私は、野辺の暮らしを思うだけでつらくなる。親孝行とおもって、どうか都に住まわせておくれ」
母親にここまで言われたら、もはや逆らえない。
祇王はやはり心細く、祇女とふたりの白拍子をともなって清盛の屋敷に出かけた。
このときの祇王の胸のうちを、『平家物語』はこう記す。
「泣く泣く又出立ける心のうちこそむざん(むごい)なれ」
それにしても、自分が都を離れたくないから祇王につらい思いを強いる刀自の本意は、どこにあったのだろうか。
考えようによっては、娘の気持ちを顧みないひどく身勝手な母親である。
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平家物語の群像 祇王⑤心のうちこそむざんなれ
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