祇王は一首、襖に書き残した
かわいい祇王のいうことならと、清盛は仏を屋敷に招き入れた。
「会う気はなかったが、祇王が是非にというから来てもらった。今様(いまよう:流行歌)の一つでも歌ってみよ」
仏は、清盛の前で今様を即興で歌った。
○君を初めて見る折は 千代も経ぬべし姫小松
御前の池なる亀岡に 鶴こそ群れ居て遊ぶめれ
初めて拝顔の栄に浴します君(清盛)は、(とても立派な方なので、)姫小松(仏)は千年も命が延びそうです。御前(清盛)の前の池にある亀山に、鶴が群がって遊んでいるようです
仏は見目麗しい上に、歌声がうっとりするほど綺麗である。
清盛の心が動いた。
「大したものだ。舞いも一つ見てやろう」
仏はとうに古今に例のないほどの舞いの名手として、都中に知れ渡っている。
清盛は、仏のみごとな舞いに魅了された。
気持ちは、すっかり祇王から仏に移っていた。
つい先ほど、「白拍子に用はない。追い返せ」とすげなく突き放していたのが、「ずっとこの屋敷に住むがいい」
君子は豹変する、か。
仏は腕に覚えのある芸を、当代の英雄の前で披露したかっただけである。
祇王の座を奪おうという気持ちはさらさらない。
仏は辞退した。
すると清盛は、「祇王があるをはばかるか。その儀ならば祇王をこそいださめ」と祇王に屋敷を出ていくよう命じた。
祇王にとって、3年も住んだ屋敷であり名残惜しくもある。
襖に一首、書き残した。
○萌え出づるも 枯るるも同じ野辺の草 いづれか秋に逢はで果つべき
芽生えたばかりの草も枯れようとする草も、野辺の草は結局みな同じように秋になると枯れ果ててしまいます。人もまた~
今様 (コレクション日本歌人選)/植木 朝子
¥1,260
Amazon.co.jp
梁塵秘抄 (ちくま学芸文庫)/著者不明
¥1,050
Amazon.co.jp
祇王・仏 (京の絵本)/村中 李衣
¥1,890
Amazon.co.jp
↧
平家物語の群像 祇王③心変わり
↧