二十三帖 初音
光源氏太政大臣36歳 紫の上28 玉鬘 24
明石の君:27 明石の姫君:8 夕霧中将15 花散里22
碁盤を囲む空蝉うつせみ)と軒端荻のきばのおぎ
宇治市源氏物語ミュージアム
五葉の松
山地に生えるマツ科の常緑高木で、庭木や盆栽にする。
樹皮は暗褐色で、針形の葉が五本ずつ束になってつく。
次に明石の姫君の部屋を訪ねると、女童や下仕えの女房たちが庭先の築山の小松を引いて遊んでいる。
若い女房たちも正月を迎えて気持ちが浮き立つのか、じっとしていられないようだ。
何人かずつ集まって、楽しそうに笑い声を上げながら『囲碁』や『双六』などの遊びに興じている。
部屋を見渡すと、【冬の御殿】で暮らしている明石の君からいろんな贈り物が届いていた。
明らかに自ら作ったと思われる見事な五葉の松の枝にとまっている鴬は、いかにも何かもの言いたげである。
鶯が言いたいことを、和歌にしたためてあった
〇 年月を *まつにひかれて *ふる人に
けふ鴬の *初音聞かせよ
〈鶯の鳴き声の聞こえない里から〉
わが子を想う明石の君の切ない気持ちをひしひしと感じている源氏は、めてたい正月に縁起でもないが、涙をこらえることができない。
娘の将来の幸せのためとはいえ、幼くして生母から切り離していることが母娘にとってどれほど罪作りなことか。
そのことは源氏も重々分かっている。
姫君に、
「母上に初便りのお返事をお書きなさい」
〇 ひきわかれ 年は経れども 鴬の
巣立ちし松の 根を忘れめや
お別れして長い年月がたちましたが、鶯が巣立った
松を忘れないように、どうして母上を忘れられましょう
それから、【夏の御殿】に花散里を訪ねた。
新春という季節柄、夏のまぶしい太陽の季節に花開く草花や樹木にはまだ精彩がなく、広い庭は色彩に乏しく地味なたたずまいである。
*下仕えの女房 貴族の家に仕えて雑用を務めた女房
*女童めのわらわ/おんなわらわ 女の子 少女
*まつ 「松」と「待つ」の掛詞
*ふる 「経る」と「古る」の掛詞
*初音はつね 23帖『初音』の由来
鳥や虫の、その年その季節の最初の鳴き声。
特に、鶯 の鳴き声をいう。
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