第二十帖 朝顔
光源氏の内大臣時代 32歳九月~冬
内裏だいり
帝の私的な居住空間
薄紫色の区域が女御や更衣の住んでいた『後宮/奥御殿』
源典侍は尼になって女五の宮のお弟子として勤行していると聞いてはいたが、年齢からしてまだ生きているとはまさか思っていなかった。
意外な声に、源氏、
「亡き桐壺院がご存命の頃のことは何もかも遠い昔話になり、思い出すことさえ心もとないのに懐かしいお声を聞くものです」
源氏が物に寄りかかっているあでやかな様子に源典侍は昔のことを思い出して相変わらずの艶めかしい「しな」を作った。
「人さまの老いを嘆いているうちに、わたくし自身すっかり老いてしまいました」
歯が抜けて巾着のようにすぼんだ口元が思いやられる声だが、それでも甘ったるい口調で色っぽく戯れかかろうとする。
いま急に年老いたわけでもなかろうにと源氏は苦笑したが、思えば、この老女の身の上もまた哀れであった。
「源典侍が宮中で働いていた頃は、『後宮』で帝寵を争っていられた女御や更衣のうち、ある方は既に亡くなられ、ある方は見る影もなく落ちぶれておられる。
それにしても、藤壺尼宮のなんと薄命であったことか。
年齢からいえば余命いくばくもなさそうで性質も浅はかに見えた源典侍がいまなお生き残って、心静かに仏道修行をして余生を送っているのは、やはりこの世は定めないのだ」
朝顔姫宮の部屋ではすでに格子を下ろしていたが、源氏の訪れを迷惑がっていると思われるのもどうかと一、二枚は上げたままにしてある。
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絶望名言
人は常に前へだけは進めない。
引き潮があり上げ潮がある。
ニーチェ