「清涼殿」in内裏
北西に「藤壺」、北「弘徽殿」、北東隅「桐壺」、南東「紫宸殿」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「今日は、光の『青海波』が圧巻だった。あなたはどう思いましたか」
藤壺は戸惑った末、やっとこれだけ答えた。
「格別、でございました」
翌朝、藤壺のもとへ源氏から手紙がとどいた。
「昨日の「青海波」をいかがご覧になりましたか。藤壺様への苦しい思いに耐えつづけました。
○もの思ふに 立ち舞ふべくも あらぬ身の
袖うち振りし 心知りきや
(藤壺様を前に気持ちが乱れ)、無心に舞える心の状態ではありませんでした。舞いながら袖を振った私の気持ちを、お分かり頂けたでしょうか
中学か高校の教科書に載っていた有名な万葉歌
○あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る 額田王
*袖振る (求愛の)合図を送る
あれ以来、源氏とのあらゆる接触を自分に禁じていた藤壺だが、きのうの源氏の舞姿が目もくらむほどに美しかったからだろうか、珍しく返事した。
○唐人の 袖振ることは 遠けれど
立ち居につけて あはれとは見き
青海波は唐の国の舞いですから、袖を振ることがどういう意味なのか存じません。ただ、源氏の君の一挙手一投足は、深く心にしみました
久しぶりに届いた藤壺からの手紙は、源氏にとって何よりもの宝である。
自然に、顔がほころんできた。
「異国の舞楽にも通じておられる教養の深さ。すでに、中宮(皇后)としての風格を備えておられる」
源氏は尊い持経(じきょう:肌身離さず持っていて読誦する経文)のように、両手で丁寧に広げてなんども眺めていた。
朱雀院への行幸には、春宮(とうぐう:皇太子)をはじめ宮廷を挙げてお供した。
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