

光源氏、雪明かりの中で初めて末摘花の醜貌をみる
食事も見るからに粗末なもので、しかも女房たちは姫君の食べ残しを口に入れている。
「長生きするのも、考えものですね」
「常陸宮様がご存命だったころ、どうして暮らし向きが苦しいなどと嘆いていたのでしょう」
「いま思えば、夢のような日々でした」
貧窮生活がよほど辛いのか、ひとりの女房がうつむいて泣きだした。
寒さに震えている女房もいる。
みすぼらしい身なりの女房たちが、髪型を宮中女官風に装っているのも異様だ。
せめて宮家としての格式を保ちたいのだろう。
ふたたび味も素っ気もない夜をすごした翌朝、源氏が起きだして格子を上げると、庭の雪景色が息を呑むほどに美しい。
末摘花に声をかけた。
「庭の雪景色を、ご覧なさい」
末摘花は部屋からにじり出てくると、そのまま源氏の横にすわった。
源氏は外の雪景色を眺めているふりをしながら、ちらっと末摘花に目をむけた。
長い黒髪が裾まで 引いているので、一瞬、美人かと思った。
当時、長い黒髪は美人の必要条件だったからである。
でも、もちろん十分条件ではない。
一瞬の間をおいて、源氏は腰が抜けるほどに愕然とした。
びっくりして、声も出ない。
みっともないほどの胴長短足であることは、真っ暗な寝室でもうすうす気がついていた。
そして今こうして雪明かりの中で見ると、末摘花の顔は人類の付属物とは思えないほどの馬面でどこまでも延びている。
だが、何といっても際立って醜いのは、今まで見たこともない人間離れした象のような鼻の形と長さと色である。
源氏物語を知っていますか 阿刀田高/新潮社

¥2,160
Amazon.co.jp
ハチャメチャに面白いローラは私生活では苦労が尽きません。もともと表情は言動ほどには明るくない。
なぜいい女はパッとしない男に惚れるのか? 誰も知らない60の脳のお話 澤口俊之(アスキー新書 021)/アスキー

¥782
Amazon.co.jp
わが子を思う「母たち」の姿が・・
