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Channel: 吉備路残照△古代ロマン
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末摘花⑮源氏、襖を開ける

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廬山寺 廬山寺 紫式部の邸宅跡
『源氏物語』を執筆した。京都御苑近く
境内に紫式部と娘・大弐三位(だいにのさんみ)の歌碑がある

紫式部歌碑 紫式部歌碑

○めぐりあひて 見しやそれとも わかぬ間に
   雲がくれにし 夜半の月かな  紫式部『新古今集』
久しぶりに逢えたのに、あなただと分かるかどうかのわずかな間に慌ただしく帰ってしまわれた。まるで雲間にさっと隠れてしまう夜半の月のように

○有馬山 猪名の笹原 風吹けば
   いでそよ人を 忘れやはする  大弐三位『後拾遺集』
有馬山の近くにある猪名(いな)にある笹原に生える笹の葉がそよそよと音をたてる。どうして、あなたのことを忘れたりするものですか

   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


「はじめてのお返事だからでしょうか。お声をお聞きして、こんどは私のほうが言葉に窮してしまいます」

○言はぬをも  言ふにまさると  知りながら

    おしこめたるは  苦しかりけり
言わぬは言うにまさると存じてはおりますが、やはりあなたの沈黙はつらいものです

源氏は何やかやと取り留めのないことをあるいは冗談めかしてあるいは真剣に話しかけるが、何の甲斐もなく、姫君はふたたび無言に戻ってしまった。

うんともすんとも言わない。

これほどまでに手応えがないのは、「姫君にだれか好きな男がいるからだろう」と癪にさわって、そっと襖を開けるといきなり中へ入っていった。


「まあ、ひどいことを。手荒な真似はしないと仰ったのに」

命婦源氏をうらんだが、姫君が気の毒とはおもいながら、そ知らぬ顔をして自分の部屋の方へもどっていった。

若い女房たちは、源氏が世に類ない美しい姿ときいているので、咎めようともせず嘆くこともない。

ただ思いも寄らないことで、何の心構えもなかったはずの姫君を案じた。

末摘花自身は茫然としてただただ恥ずかしく、身が竦んで何も考えられなかった。

源氏は、深窓で大切に育てられてきたからいつまでも初心(うぶ)なのだろうと大目にみる一方、あまりの反応のなさに妙な感じがしてかえって気の毒になった。


末摘花は、何に対しても不思議なほどに手応えがない。





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