清涼殿 (帝の私的な居住空間) 清涼殿から近い部屋を与えられた(中宮・女御・更衣)ほど出自が高い。源氏の母の父は大納言だから、もっとも遠い桐壺をあてがわれた
廂の間@清涼殿
宮中からの帰りに六条京極を通りかかったとき、荒れ果てた屋敷がみえた
「亡き按察の大納言(あぜちのだいなごん)のお屋敷でございます。先日ついでがあって伺いましたら、『尼君が衰弱されたので心配しております』と女房たちが申しておりました」
惟光(これみつ)が説明すると、
「お気の毒に。すぐにお見舞いに来るべきであった。なぜ、もっと早く知らせなかったのだ。挨拶をしてこい」
惟光が源氏の来訪を告げると、女房、
「困りましたわ。ここ数日、尼君はますます衰弱されました。源氏の君にお目にかかることなど、とてもおできになれません」
しかし、すぐに帰すのも畏れ多いので、南の廂(ひさし)の間を片づけて源氏を通した。
「せめてお見舞いのお礼だけでもと存じまして。むさ苦しい御座所で恐縮でございます」
源氏は、襖ごしに尼君に声をかけた。
「お見舞いに伺わなければと思いながら、つれないお返事ばかり頂いておりますので、遠慮いたしておりました。ご容体が悪くなっておられるとは存じあげず、案じておりました」
尼君は、女房をとおして、
「具合が悪いのは、いつものことでございます。もったいなくもお立ち寄り下さいましたのに、お目にかかってお礼を申し上げることもできません。
孫娘のことですが、このさき万が一にもお気持ちがお変わりにならないようでしたら、成人した暁に是非ともお目をかけて下さいませ。
幼いあの子を残して死んでゆくことが気がかりで、往生の妨げにもなりそうに思えます」
近いので、尼君の心細そうな声が途切れ途切れに聞こえる。
「あの子が、お礼の一言も申し上げられる年頃であれば宜しいのですが」
源氏は女房に頼んだ。
「かわいらしい姫君のお声を、ぜひお聞かせください」
「姫君は、お休みでございます」
ちょうどその時、向こうから小さい足音が近づいてきた。
「おばあさま、源氏の君がいらしているそうですね。どうしてお会いにならないの」
女房たちはばつが悪く、「しっ、お静かに」と制している。
「だって鞍馬のお寺で、源氏の君を御覧になったら気分の悪いのが治ったとおっしゃっていたわよ」
源氏はおもしろく聞いていたが女房たちが困っているので、聞こえなかったふりをして、丁重なお見舞いの言葉を伝えるとそそくさと屋敷をでた。
「なるほど、まだまだ子供だ。しかし、それだけに教育のしがいがある」
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若紫⑳尼君を見舞う
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