幼い頃から『源氏物語』(1000年頃完成)に憧れていた菅原孝標女(1008~59年)が、『更級日記』の中で、上総の国(千葉県)から帰京する際、富士山の麓を通った時のことを記述している。
「頂のすこし平ぎたるより煙は立ち上る。夕暮れは火の燃え立つも見ゆ」
当時、富士山は活火山だった。
明石の浦
右大臣家(弘徽殿大后)との政争に敗れた光源氏は、一時期、須磨と明石に退去、不遇をかこっている。
「こんなに美しい所で暮らしている人々は、何も思い残すことはないだろう」
「いえいえ、洛北以上に風光明媚な場所など地方にはたくさんございます。源氏の君も、各地の山や海の景色を御覧になられたら如何でしょう。気晴らしにもなりますし、絵もますます上達されましょう。富士の山とか○○嶽とか……」
また、別の従者は、
「西国の陽光あふれる浦々や、海辺の美しい景色も見逃せません。近い所では、播磨国(兵庫県)の明石の浦が一見の価値があります」
これといって、格別の見所があるわけではありません。
「ただ広々とした海原を見渡していると、他の場所とちがって、不思議なほどゆったりとして穏やかな気分に包まれます」
ここで、その従者は話題の目先を変えた。
のちに源氏の義父となる明石入道が登場する。
「前の播磨の守は出家して入道となりましたが、娘(のちの明石の方)をひとり、大切に育てております」
その住まいが、目を見張るほどの豪邸なのです。
「入道は大臣家の血を引いていて宮廷においても出世できたのですが、たいそうな偏屈者で、人付き合いを嫌い、『近衛の中将』の官職を自ら捨て、『播磨の守』を望みました」
しかし、その余りの偏屈ぶりが播磨の国の人々にも侮られたようです。
「それで、『何の面目あって、都に戻られよう』と、剃髪してしまいました。だからといって、奥深い山に入って隠遁生活を送るわけでもなく、海辺で豪勢に暮らしおります」
出家の身で、贅沢な暮らしにこだわるなどもっての外です。
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