源氏 夕顔 頭中将 玉蔓(たまかずら)
加持祈祷(かじきとう)
病気・災難などを祓うために行う祈祷orその儀式。印を結び真言を唱え、幾つかの象徴的器具を用いて行う。
右近(うこん)はとりたてて美人でもなければ不器量でもない、若い女房である。
9月中旬を過ぎたころ、源氏はすっかり快復した。
そんな秋の日の夕暮れ、右近を呼んで気になっていることを尋ねた。
「亡くなった夕顔は、なぜ私に素性を明かそうとしなかったのだ。他人行儀ではないか」
「夕顔様も、『お遊びのつもりだから、ご身分をお隠しなのでしょう』と切ないご様子でした。源氏の君であることは、はじめから察しておられました」
源氏も、夕顔は頭中将が『雨夜の品定め』のとき話していた常夏の女であることに気がついていた。
あのとき、頭中将が、「中流の女はいい」といっていた「中流の女」である。
「お互いつまらない意地を張り合ったものだな。ほんの短い逢瀬だったのに、どうしてこんなに恋しいのだろう。前世からの因縁があるに違いない。夕顔のことをいろいろ教えてほしい」
「御両親は早くに亡くなられました。御父上は三位中将でした。ふとした御縁で、その頃はまだ少将だった頭中将様と恋仲になられ、3年ほど通って下さいました」
ところが、去年の秋のことです。
「頭中将様の北の方から、脅迫めいたことを言ってきました。夕顔様はご存知のように気のやさしい方です。かつての乳母(めのと)を頼って、逃げるように西の京に隠れ住まわれました。しかし、いつまでも乳母の家に厄介にはなれません」
源氏の君と出会われた「五条の家」に移り住まれたのです。
「幼い娘もいなくなったと頭中将殿が顔を曇らせていたが、その子は今どこにいる」
「おととしの春、とても可愛い姫君(のちの玉蔓 たまかずら)がお生まれになりました」
「その姫君はどこにいる。内密に私に預けてくれないだろうか。夕顔の形見と思って大切に育てたい。父親の頭中将殿に知らせるべきなのだろうが、私は彼に取り返しのつかない事をしてしまった」
事情を話せば、私を恨むであろう。
「西ノ京の乳母にうまく話しをつけて、その子を連れてきてくれないか」
「願ってもない事でございます」
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9月中旬を過ぎたころ、源氏はすっかり快復した。
そんな秋の日の夕暮れ、右近を呼んで気になっていることを尋ねた。
「亡くなった夕顔は、なぜ私に素性を明かそうとしなかったのだ。他人行儀ではないか」
「夕顔様も、『お遊びのつもりだから、ご身分をお隠しなのでしょう』と切ないご様子でした。源氏の君であることは、はじめから察しておられました」
源氏も、夕顔は頭中将が『雨夜の品定め』のとき話していた常夏の女であることに気がついていた。
あのとき、頭中将が、「中流の女はいい」といっていた「中流の女」である。
「お互いつまらない意地を張り合ったものだな。ほんの短い逢瀬だったのに、どうしてこんなに恋しいのだろう。前世からの因縁があるに違いない。夕顔のことをいろいろ教えてほしい」
「御両親は早くに亡くなられました。御父上は三位中将でした。ふとした御縁で、その頃はまだ少将だった頭中将様と恋仲になられ、3年ほど通って下さいました」
ところが、去年の秋のことです。
「頭中将様の北の方から、脅迫めいたことを言ってきました。夕顔様はご存知のように気のやさしい方です。かつての乳母(めのと)を頼って、逃げるように西の京に隠れ住まわれました。しかし、いつまでも乳母の家に厄介にはなれません」
源氏の君と出会われた「五条の家」に移り住まれたのです。
「幼い娘もいなくなったと頭中将殿が顔を曇らせていたが、その子は今どこにいる」
「おととしの春、とても可愛い姫君(のちの玉蔓 たまかずら)がお生まれになりました」
「その姫君はどこにいる。内密に私に預けてくれないだろうか。夕顔の形見と思って大切に育てたい。父親の頭中将殿に知らせるべきなのだろうが、私は彼に取り返しのつかない事をしてしまった」
事情を話せば、私を恨むであろう。
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