光源氏 夕顔 頭中将 六条御息所
『見立石山寺紫式部図』 菱川師宣
宮中と二条院と貴族の邸宅しか知らなかった源氏には、初めて耳にする庶民生活の声であり音である。
逢瀬を重ねているうちに、源氏はおっとりして品よく肩ひじ張ったところのない夕顔の人柄にのめり込み、自邸の二条院に連れて帰りたいと思うほどだった。
17歳当時、ほかに関係のあった六条御息所(ろくじょうみやすどころ)と空蝉(うつせみ)は意志的で性格がきつく、気が休まらないタイプである。
8月15日の満月の夜が明けた早朝、源氏は夕顔を誘った。
「ここを抜け出して、私の知っている場所へ出かけましょう」
夕顔はさすがに気が進まなかったが、侍女の右近(うこん)を伴って牛車に乗り込んだ。
廃墟のような邸に着いて源氏が留守番役を呼びに行っている間、夕顔は荒れ果てた不気味な邸の様子に怯えている。
戻ってきた源氏は、震えている夕顔が愛おしかった。
青ざめている夕顔を気遣って、留守番が源氏にいった。
「だれか、呼びましょうか」
「誰にも知られないように、ここへ来た。人に話してはならぬ」
留守番役が戻って行くと、源氏が夕顔に和歌を詠みかけた。
○いにしへも かくやは人の 惑ひけむ
我がまだ知らぬ しののめの道 光源氏
昔の人もこのように迷ったのでしょうか、
私がまだ知らない明け方の恋の道を
○山の端の 心も知らで 行く月は
うはの空にて 影や絶えなむ 夕顔
あなたの気持ちを知らないでついて行くわたしは、
空の途中で姿を消してしまうのでしょうか
源氏は、「もういいだろう」と覆面をとった。
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夕顔⑤廃墟のような邸へ
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