源氏は空蝉の寝室に忍び込んだが逃げられる 歌川広重画。
囲碁の対局が終わると、軒端荻は、「今夜は、こちらで寝ます」というなり、空蝉の隣ですぐに寝息を立てた。
軒端荻はすこぶる健康で、何の悩みもないらしい。
夜が更けて女房たちが寝静まったころ、源氏は小君の手引きで空蝉の部屋に向かった。
男を女の寝室に導くのは普通、女に仕える女房だが、女の弟というのは実に珍しい。
これから、『源氏物語』の英訳本などを読んでいて外国人が大笑いするという「艶笑譚」が始まる。
『源氏物語』は、25か国ほどの言語に翻訳されています。ちなみに、ここ数年、ノーベル文学賞候補にその名が挙がっている村上春樹の作品は今現在、およそ20か国で出版されているそうです。
空蝉はあの夜以来、源氏を拒否しながらも忘れられないでいる。
昼は物思いに沈み勝ちで、夜は目が冴えてなかなか眠れない。
空蝉は、父親ほどの年齢の夫をもつが愛してはいない。
それどころか、衛門督(えもんのかみ)という中央官僚だった亡き父親よりも格下の伊予介という地方役人の後妻に収まったことを、ずっと不満に思っている。
そんな時、天下に並びなき貴公子の源氏と結ばれた。
レイプ同然だったが、不愉快でもなければ憎悪心も湧いてこなかった。
「こんなことがあってはなりません。わたしは人の妻です」と17歳の源氏を諭しつつ、こうも言っている。
「もし独り身であれば、どんなに嬉しいことでしょう」
それ以来、空蝉の心の中に源氏が住みつく。
しかし行動の上では、身分や器量が違いすぎることを意識せざるを得ず、「人妻だから」と拒絶し続けた。
源氏を想いつつも拒みつづける女にはあの方がいるが、あの方の場合は身分と器量は源氏と同格で、「人妻だから」の一点だけである。
いずれにしろ、二人とも源氏の求愛を斥けることによって女としての価値を高めている。
空蝉が寝つかれずにいると、衣(きぬ)ずれの音がして最上等の芳香が漂ってきた。
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空蝉⑩恋しつつ拒む女
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