「どうか、今後、わたしに構わないで下さい。卑しい女には、卑しい女なりの誇りがあります。お願いです。今日の事はなかったことにして下さい」
空蝉(うつせみ)は、身分ちがいの男によって一夜の慰み者にされたことが悔しくてならない。
もちろん、「今夜のことが、夫の伊予介(いよのすけ)に知られたら……」という心配もある。
一方、当代一のモテ男を自他ともに認めている源氏は、情事のあと、これほど筋道立てて拒絶の意を含んだ言葉を浴びたことはなかった。
この明快な話しぶりが、頭中将(とうのちゅうじょう)のいう、「中流の女は面白い」ということか。
思えば、空蝉より身分も教養も高い上流中の上流であるあの方や六条御息所(ろくじょうみやすどころ)や正妻の葵の上らは、論理的な話し方はしない。
珍しさも手伝ってか、この論理性が源氏に空蝉への関心をかき立てた。
夏の短夜(みじかよ)は、早くも明けようとしている。
人が起き出す気配に、中将が迎えに来た。
空蝉の毅然とした態度がいたく気に入った源氏は、弟の小君(こぎみ)を、「近いうちに宮仕えさせるから…」と紀伊守(きいのかみ)に約束して身辺に使うことにした。
本音は、小君を空蝉との連絡係にしたいらしい。
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