藤壺は源氏に心身ともに疲れはて、桐壺院をだまし通した罪に震えた。
眩暈がして、底知れぬ闇に堕ちて行く。
薄らぐ意識の中、「源氏とともに、奈落の底に堕ちたい」と願っていた。
「中宮様、大丈夫ですか」
女房たちの叫び声が聞こえるが、すぐに遠のいていった。
御簾(みす)の外では、源氏が呆然と立ち尽くしている。
もう明け方に近い。
「人が来ます。早く、どこかへ隠れて下さい」
女房たちの声に、源氏は塗籠(ぬりごめ:納戸)に身を隠して、息をひそめた。
藤壺の兄の兵部卿宮(ひょうぶきょうのみや)らがやって来て、何やら話している。
源氏が出るに出られないうちに、とうとう日が暮れてしまった。
「中宮様は、ずいぶん御気分が良くなられたようだ」
兵部卿宮たちが、ようやく帰って行く。
女房たちが見送りに出ているすきに、源氏は塗籠を抜けだし、御簾を跳ね上げて藤壺の部屋へ入った。
藤壺は、驚くまいことか。
「あのとき」以来の藤壺は、消え入るように儚げで美しい。
源氏は胸がつまって、目から涙が溢れた。
藤壺は、視線を逸らした。
「気分がすぐれません。どうか、お帰りになって下さい」
女房たちも、きつく帰るように促した。
源氏は夢遊病者のような足取りで、暗闇に消えて行く。
あとに、藤壺の嗚咽が闇夜に響きわたった。
桐壺院の1周忌、藤壺は突然、出家の意志を明らかにした。
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