源氏物語 血縁中心の人物相関図
紫式部役『源氏物語 千年の謎』の中谷美紀 平安神宮
藤壺は、源氏の一方的な恋情の押しつけに戸惑うばかり。
御簾ごしに、熱に浮かされたかのように切々と思いを訴えている。
藤壺はどうしても源氏の激しい恋の炎を避けねばならないが、その心労たるや、身体を壊すほどだった。
恐怖にさえ感じている。
出会いのタイミングが悪かった。
初対面のとき、二人は互いに初恋に似た気持ちを抱くが、その時、藤壺はすでに桐壺帝の妻(女御)である。
すべてに恵まれている美男美女のカップル誕生、というわけにいかない状況にあったのだ。
その辺のことを理解している藤壺は源氏への思いを抑えて内側に閉じ込めようとしてきたが、まだ8~9歳だった源氏は舞い上がってしまう。
この件で、私は、かなり古いアメリカ映画を連想する。
病床の母親が、高校生の息子を諭す場面。
「人にはね、本当に大事な人が一人いるものよ。その人と出会ったら、しっかり捕まえなきゃダメ。そうしないと、一生、後悔するわよ」
源氏と藤壺は、互いに「その一人」だったのではないか。
そう思うと結ばれない運命にあった二人が気の毒だが、もし祝福されて結婚という筋書きであれば、『源氏物語』という世界に冠たる文学作品はうまれなかった。
順風満帆あるいは可もなし不可もなしの人生航路は、文学にはなりえないということかも知れない。
もう一つ、思いつきのようなこと。
『源氏物語』でもっとも頻出するキーワードは、「そっくり」という意味の言葉である。
源氏が藤壺に憧れいつしか身を焼くような恋に発展したのは、幼いころ、藤壺が、亡き母・桐壺更衣に「生き写し」と、事あるごとに女房たちに聞かされていたからだ。
まだ幼い若紫(紫の上)を奪うようにして自邸に引き取り、自分の理想の女に育てたのは、若紫が藤壺と「似ていた」から。
また、源氏と藤壺との間に生まれた若宮(皇太子のちの冷泉帝)は、源氏と「瓜二つ」である。
この「似ている」ことが物語展開の縦糸とすれば、源氏のあくなき女性遍歴が横糸だ。
そして、物語全体を、「因果応報」という思想で括っている。
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