夕顔 (いしだあゆみ)
いつからともなく、「光る君」に対して、だれよりも若くて美しい藤壺を「輝く日の宮」と称するようになった。
弘徽殿女御は、類まれな容姿に恵まれている二人が、宮中でもてはやされていることが不快である。
意地悪こそ出来ないが、桐壺の更衣とそっくりな藤壺の存在が気に入らない。
しかも更衣と同じように、帝の寵愛を一人占めしている。
皇太子にはわが子の第一皇子が就いたが、光る君にしかるべき有力な後見人がつくようなことがあれば、この先どうなるか分からない。
父の右大臣ともども、疑心暗鬼に囚われていた。
一方、桐壺帝は、光る君の行く末を案じていた。
このまま皇籍において親王とするか、あるいは臣籍に降下させて臣下とするか。
たとえ親王にしても、後見人のいない光る君は、最下位の親王として苦労するだけであろう。
私にしても、いつ退位するか分からない。
しかし、最愛の子を臣下とするのはいかにも忍びない。
思い悩んだ末に、その頃ちょうど来日していた高麗(こま:朝鮮半島にあった国)の観相家に、右大弁(従四位上に相当:中級貴族)の子という身分で、光る君の前途を占わせた。
観相家は、不思議そうな顔をしている。
「このお子は将来、帝王にもなり得る人相です。でも、そうなると、まちがいなく国が乱れ、人々が苦しみます。また臣下として、国政を補佐するだけで終わるとも思えません」
かつて日本の占い師に占ってもらった時も、似たようなことを言っていた。
帝は涙をのんで光る君を臣籍に下し、源氏姓を与えた。
光源氏の誕生である。
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