「道中、鎌倉から戻る文覚房とすれ違うかも知れないと思い、若君をここまでお連れしました。しかし、頼朝殿のお気持ちが分からないゆえ、足柄山の向こうにはお連れできません。
『近江で、六代殿をお斬りしました』と報告するつもりです。お気の毒ですが、若君は平家の方です。仕方ありません」
六代は時政に対しては何も答えず、斎藤五宗貞と斎藤六宗光を呼んだ。
「おまえたち、私が斬られたと母上に申し上げてはならぬぞ。嘆き悲しまれたら、極楽往生できない。鎌倉まで無事送り届けたと伝えてほしい」
斎藤五宗貞が、両手をついて涙を抑えながらいった。
「若君に先立れて、生きて都へ戻ろうとは思いません」
六代が敷皮に座って、肩にかかった髪を小さな美しい手で前へ払った。
その可憐な仕草を見ていた無骨な鎌倉武士たちは、目頭を熱くした。
「何といじらしい。この期に及んでなお気品を保っておられる」
六代は西方浄土に向かって手を合わせ、念仏を唱えながら首を伸ばした。
斬り手に選ばれた狩野親俊が太刀を構えて、左から六代の背後にまわる。
しかし、まさに太刀を振り上げ、ひと呼吸おいて振り下ろそうとしたとき、目が眩んで意識を失った。
「どうしてもお斬りできません。他の人に申しつけて下さい」
太刀を捨てて退いた。
「仕方がないな」
時政が改めて斬り手を選んでいるとき、墨染の衣を身にまとって月毛の馬に乗った聖がひとり、千本松原に向かって鞭を打って駆けていた。
千本松原の方にぞろぞろと集まっていく老若男女が噂しあっている。
「お気の毒に。あの松原の中で世にも美しい若君を北条殿が斬ろうとしてなさる」
聖は笠をとると、高く差し上げて声を限りに叫んだ。
時政が気がついて待っていると、ほどなくその聖が駆けつけて馬から飛び下りた。
「若君乞ひ受け奉つたり。鎌倉殿(源頼朝)の御教書(命令書)これにあり」
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日本だけでなく、世界的に大きな分岐点にさしかかっています。
何か大きなうねりが、地球的規模で起ころうとしています。
国論が二分するなか、安倍政権は環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に正式に参加表明しました。
まだ分からないことが多すぎるが、「守り」から「攻め」へという安倍氏の基本的姿勢には共感します。