義経と道連れになった男は、「屋島の地理は、よく存じております」という。
「そうか。ところで、その書状は誰から誰への手紙なのだ?」
「京都のさる女房から、屋島の宗盛殿への手紙です」
このおしゃべり男、自分の任務をまるで理解していない。
「何かあったのか」
「源氏がすでに淀川尻に出てきていることを知らせるためでしょう」
軍事機密が、敵側に筒抜けである。
男は、義経を平家方の武士と思ったのだろうか。
義経の顔を知らなくとも、将軍格の武将が身に着ける兜(かぶと)や鎧(よろい)などで、
源平の違いくらい見分けられなかったものなのか。
義経は、「あの文、奪へ」と郎党に命じて手紙を奪い、男を山中の木に縛りつけた。
書状を開けると、たしかに女房の筆跡。
「九郎義経はすばしっこい男ですから、どんな大風や大波も厭わず攻め寄せてくるでしょう。
決して軍勢を分散することなく、くれぐれも用心して下さい」
「これは義経に天の与へ給ふ文なり。鎌倉殿(源頼朝)に見せ申さん」
翌18日の寅の刻(午前4時)、讃岐国の引田という村里で人馬を休ませたあと、白鳥、丹生屋(にうのや)と通り過ぎた。
義経が、ふたたび親家を呼んだ。
「ここから屋島の城までは、どうなっているか」
「とても浅くなっています。引き潮のときは、馬の腹も海水に浸かりません」
「では、敵に気づかれぬうちに直ちに攻め込もう」
牟礼(むれ)や高松の民家に火を放って、屋島の城へ攻め込んだ。
河野通信を討つために伊予国へ出陣している田内教能は討ち洩らしたが、家子・郎等150余人の首を斬りとって、目指す屋島の内裏(だいり)へ向かった。
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