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平家物語の群像 維盛⑳那智の沖にて入水

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$吉備路残照△古代ロマン-維盛入水 維盛、名跡を書き付ける


夜が明けると、維盛一行は本宮大社から那智大社へ向かった。

那智ごもりの僧たちの一人が、仲間の僧らに話している。

「あそこにおられる修行者をどなたかと思っていたが、維盛殿でいらっしゃる。
まだ四位少将であられた安元2年の春、法住寺殿で後白河法皇50歳の祝いがあったとき、桜の花をかざして青海波を舞われた時は、まことに見事なものであったという」

        維盛①美貌の貴公子        

「いずれ大臣や大将にと期待されていたのに、あんなにやつれ果てたお姿となってしまわれた。
有為転変は世の習いとはいえ、哀れなことだ」

袖を顔に押し当てさめざめと泣くと、ほかの僧たちも、みな衣の袖を濡らした。


維盛は熊野三山の参詣を遂げると、浜の宮という王子社の御前から一艘の舟を出させ、青海原へ漕ぎ出した。

はるか沖に、山成の島という島がある。

維盛はその島へ舟を漕ぎ寄せさせ、岸に上り、大きな松の木を削って名跡 (みょうせき:家名) を書き付けた。

○祖父・太政大臣平朝臣清盛公、法名浄海。

○父・内大臣左大将重盛公、法名浄蓮。

○三位中将維盛、法名浄円。享年27。
           寿永3年3月28日、那智の沖にて入水

書き終えると舟にもどり、ふたたび沖へ漕ぎ出した。



今なお妻子のゆくすえが気にかかる維盛を、時頼が慰める一方、激しく鐘を鳴らして念仏を勧めた。

「煩悩を断ち切って解脱し悟りを開かれたのち、現世の故郷に帰って、北の方様と二人の御子様を導いて下さい」

維盛は、(原文) 西に向かつて手を合はせ高声に念仏百返ばかり唱へ給ひて 「南無」 と唱ふる声と共に海へぞ飛び入り給ひける。


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