維盛、名跡を書き付ける
夜が明けると、維盛一行は本宮大社から那智大社へ向かった。
那智ごもりの僧たちの一人が、仲間の僧らに話している。
「あそこにおられる修行者をどなたかと思っていたが、維盛殿でいらっしゃる。
まだ四位少将であられた安元2年の春、法住寺殿で後白河法皇50歳の祝いがあったとき、桜の花をかざして青海波を舞われた時は、まことに見事なものであったという」
維盛①美貌の貴公子
「いずれ大臣や大将にと期待されていたのに、あんなにやつれ果てたお姿となってしまわれた。
有為転変は世の習いとはいえ、哀れなことだ」
袖を顔に押し当てさめざめと泣くと、ほかの僧たちも、みな衣の袖を濡らした。
維盛は熊野三山の参詣を遂げると、浜の宮という王子社の御前から一艘の舟を出させ、青海原へ漕ぎ出した。
はるか沖に、山成の島という島がある。
維盛はその島へ舟を漕ぎ寄せさせ、岸に上り、大きな松の木を削って名跡 (みょうせき:家名) を書き付けた。
○祖父・太政大臣平朝臣清盛公、法名浄海。
○父・内大臣左大将重盛公、法名浄蓮。
○三位中将維盛、法名浄円。享年27。
寿永3年3月28日、那智の沖にて入水
書き終えると舟にもどり、ふたたび沖へ漕ぎ出した。
今なお妻子のゆくすえが気にかかる維盛を、時頼が慰める一方、激しく鐘を鳴らして念仏を勧めた。
「煩悩を断ち切って解脱し悟りを開かれたのち、現世の故郷に帰って、北の方様と二人の御子様を導いて下さい」
維盛は、(原文) 西に向かつて手を合はせ高声に念仏百返ばかり唱へ給ひて 「南無」 と唱ふる声と共に海へぞ飛び入り給ひける。
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平家物語の群像 維盛⑳那智の沖にて入水
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