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平家物語の群像 維盛⑰滝口入道のいる高野山へ

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$吉備路残照△古代ロマン-滝口入道 滝口入道襖絵 別格本山大円院 高野山

使者は、大覚寺に着くと維盛からの手紙を取り出して、北の方に渡した。

北の方は手紙に目を通すと、思いが一気にあふれて衣を被って臥せてしまった。

『平家』の女性たちは、つらいことや悲しいことがあると、「衣を被って臥せてしまう」
国民的大文学に対して、こんなことをいうのもナンだが、ワンパターンである。

治承・寿永の乱を借りて、「諸行無常の響」 と 「盛者必衰の理」 を表現するのが全編をつらぬく根幹ゆえに、個々の人間のこまかい動作や仕草などに構っていられないということでもあるまいが。

4、5日たったころ、使者が、「御返事をいただいて、屋島に戻ります」と告げると、北の方は泣く泣く返事を認めた。

六代夜叉も筆を取って、「母上、父上へのお返事はどう書けばよいのですか」

「思うままのことを、書けばいいのですよ」

ふたりの手紙は、同じ内容になった。

「などや今まで迎へさせ給はぬぞ。あまりに御恋しう思ひ参らせ候ふに疾く疾く迎へさせ給へ」

使者は返事をあずかると屋島へもどり、維盛にわたした。

まず幼い子供たちの手紙を読んで、遣る瀬なく愛おしさに胸をつまらせる。

「そもそも私に出家する気持ちはない。この世への愛執が強く、往生を願う気持ちは弱い。これから山伝いに都へ上り、愛しい者たちを一目見て自害をしよう」 と涙ながらに語った。



『平家』 によると、一の谷の敗戦後の寿永3年3月15日、維盛はわずか3人の供だけを連れて、戦線を離脱した。

ただ、今すぐにでも妻子の顔を見るため都に入りたいが、一の谷で生け捕りとなった叔父の重衡が都大路を引き回され、鎌倉に護送されると聞く。

        平重衡⑰重衡、頼朝と対面

とりあえず、滝口入道のいる高野山へ向かった。


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