義経や弁慶の一行が、北陸を通って奥州へ逃れる途上の加賀国安宅の関 (石川県小松市)。
一行は、弁慶を先頭に山伏の姿で関所を通り抜けようとした。
しかし、関守の富樫左衛門のもとには、すでに義経一行が山伏姿であるという知らせが届いていた。
富樫の尋問に対して、「焼失した東大寺再建のための勧進をしながら諸国を歩いている」 と弁慶が答えた。
すると、富樫は勧進帳を読むように命じる。
弁慶は、とっさに持ち合わせの巻物を広げて、あたかも勧進帳であるかのように朗々と読み上げた。
得心がいかない富樫が、山伏の心得や秘密の呪文について尋ねると、
弁慶は、比叡山で修行した経験を活かして淀みなく答えた。
富樫は通行を許そうとするが、部下のひとりが義経に疑いをかける。
「あの者らの中に、さっきからずっと傘で顔を隠している者がおります。動きもあやしく、義経と思われます」
弁慶はすぐさま、手に持っていた金剛杖で、主君の義経を何度も何度も何度もこっぴどく叩いた。
「こいつめ。こいつめ。こいつめ。お前が義経とやらに似ているせいで、いつもあらぬ疑いをかけられるではないか」
富樫は弁慶のウソを見抜いたが、その心情を汲んで、だまされた振りをして一行を通した。
安宅の関を通ったあと、弁慶は主君を殴ったことについて泣きじゃくりながら義経に謝ったという。
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