源氏物語名場面㊸
浮舟 参
匂宮と浮舟
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しかし時間がたち
気持ちが落ち着くにつれて
別の感情が浮舟に生まれていた。
淡泊な薫とちがい
情熱的に愛情を示す匂宮
に次第に魅かれていくのである。
匂宮、
○長き世を 頼めてもなお 悲しきは
ただ明日知らぬ 命なりけり
行く末長い仲を約束してもやはり悲しいのは
人の命は明日をも知れぬことです
浮舟、
○心をば 嘆かざらまし 命のみ
定めなき世と 思わましかば
人の命さえ永遠ではありませんもの
まして人の心など移ろいやすいものです
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二月の上旬
ようやく宇治の《別荘》へ出向いた
薫は
何かしら思い悩んでいる様子の浮舟に
「しばらく会わないうちに
女としてずいぶん成長したものだ」
と感心、
近く都の【邸】へ迎える約束をした。
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二月二十日過ぎの夜
宮中で『詩宴』が催されたが
漢詩好きの匂宮と薫もむろん参加した。
だが急に
雪が激しく降り
暴風が吹き荒れたので
『詩宴』は早々に打ち切られ
匂宮の宿直部屋に何名か集まった。
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薫が一杯機嫌で「古歌」を口ずさむ。