ランブラス通り/店はこの通りに
せまい部屋の真ん中に簡素な木製の机が、片隅に一昔前の日本の黒電話とよく似た電話が置いてある。
三太郎は、その机をはさんで二人のスペイン人と向き合う形で、スチール製の椅子に座るよう促された。
色白で丸顔の店長は英語が苦手のようで、黒装束に身を固めただて男が、彼のスペイン語を英語に訳した。
場数を踏んでいるらしく、両者の呼吸はピタリ。
今まで何人の外国人観光客が、この部屋に連れ込まれたのだろう。
そんなことを想わせる。
まさか、女性も?
しばらく話しているうちに、一つの疑念がわいてきた。
恰幅のいい男は店長と言っているが、本当に店長なんだろうか。
だて男もそうだが、ひとり旅の気の弱そうな外国人観光客に法外な値段を吹っ掛ける担当として、レストランに雇われているのではないか。
たぶん外国から葱を背負ってやって来た鴨を物色して、非常識な多額の金を巻き上げるのが彼らの仕事なのだろう。
「食事とワインそしてテーブルマナー指導料、合わせて18万円です。計算に間違いはありません。何度も計算して確かめました。ビタ一文負けられません。それだけの価値ある時間を、当店であなたは過ごされたのです」
店長は、あくまで丁重なスペイン語で繰り返す。
三太郎はスペイン語を聴き取れないが、彼の表情や声のトーンで、それくらいの見当はついた。
もちろん、分からない部分はだて男の通訳に頼るが、店長はほとんど同じセリフを繰り返している。
それにしても、テーブルマナー指導料などと虚を衝くようなことをいったのには驚いた。
頼んでいない。
食事前に、だて男が、「マナー指導は当店のサービスです」といっていたが、予め料金に入れていたわけだ。
単にビール3本で5万円吹っ掛けるよりも、曖昧な部分があるだけに賢いといえば賢い。
こんなことに感心してはいけないが、よく言えば用意周到だ。
いずれにしろ、三太郎には18万円を払う気もなければ、持ち合わせもない。
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